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「手の腱も切られたいか」

そう言ってこちらを睨みつけてくる鷹の目の威圧感はさすがとしか言いようのないもので、しかしそうしている理由が雛鳥であった時分から進歩していないとわかるだけにどうにも締まらない気持ちになった。
古びた本を繰る手を止めて顔をあげた先には案の定ギラギラと光る金色の瞳。
昔のようにピィピィ鳴くことはなくなったものの鷹の目の鋭い視線は言葉以上に雄弁で、よそに意識をやるおれに構え構えと喧しく訴えてくる。
しかし構えといわれたところで萎えた足でなにができるわけもなく、本人の口から構い方が提示されるまで無視していようと手の届く場所にあった本で暇を潰していたらあの発言だ。
話しがしたいならそう言えばいいし撫でてほしいなら強請ればいいだろうに。
それをすっ飛ばして脅しにくるとは、いっそすがすがしいほどの理不尽さである。

「まったく……ほら、こっちにおいで」

息を吐いて本を閉じ、ベッドの上から手で招くと、目をぎらつかせたままの鷹の目は迷うことなく真っ直ぐに近寄ってきた。
まるで飼い主に呼ばれた犬のようだ。
威厳も何もあったもんじゃないな。
そんなこと考えながら手招きを続け、ギシリとベッドに身を乗りあげたところを捕まえて唇を指でなぞると金色の瞳が零れんばかりに見開かれた。
大剣豪らしからぬ幼い表情が面白くて昔のように「ミホーク」と名前を呼んでやれば感情の読めない無表情の中にじわりと喜色が滲む。
男が男に向かってベッドの上で唇に手を添えて名前を囁くなんてちょっと冷静に考えればげんなりしそうなものなのだが、軽く観察してみてもそのような気配は少しもない。
おれの意識が自分に向くならどんな構われ方でもいいと、そういうことなのだろう。

「くち、あけて」

ならば、と子供に言い聞かせるようにゆっくりと命令すれば魅入られたような顔で、これまたゆっくりと口が開けられた。
餌を強請る雛鳥じみた仕草なのに色気を感じるのは離れている間に羽が生え揃ってすっかり成熟した証である。
これならば、おれが思う『構い方』でも問題はないだろう。
片腕で腰を抱き寄せると黒刀を振るうために鍛え上げられた身体は少しの抵抗もすることなくおれの上へと倒れこんできた。
雛の頃から知っている男を手籠めにしようという背徳感が興奮を煽る。
欲しくて、でも諦めるしかないと思っていた存在なだけに猶更だ。

「おれのものになるか?ミホーク」

おれだけを映す金色が熱をもって滲みだす。
笑いながら口内に含ませた指に、是を示すように熱い舌が絡まった。