失礼しますと扉の外から声をかけて病室に入ってこようとした、瞬間、ヒッと小さな悲鳴をあげて逃げていったおれの部下。 その背中を見送って「ああ、もう」と額に手を当てるとベッドの脇からピリピリとした殺気が飛んできた。 「……いまの男に、なにか用でもあったのかァい?」 病院らしい簡素な椅子に腰かけてこちらを睨みつけているのは、海軍本部における上官であり、復縁したばかりの恋人であり、おれをこんなふうに病院送りにした張本人でもあるボルサリーノだ。 元々のボルサリーノは個人主義的で独立性の高い嫉妬や独占欲とは無縁の性格だったはずなのだが復縁する際におれが仕掛けたイタズラに何か思うことがあったのか最近ではおれに近づく『妖精さん候補』への威嚇に余念がない。 これまでがこれまでだっただけに嫉妬してもらえるのは嬉しいのだが、ボルサリーノの中のおれが『少し優しくされただけで見ず知らずの相手に惚れるちょろい男』と位置付けられてしまったようでちょっと切なかったりもする。 そんなに気を張らなくたって、おれの妖精さんは一人きりだというのに。 「……アルバ〜?」 心配そうに怯えた目を向けるボルサリーノにため息をつき、身を乗り出してキスをする。 何をされたか理解した後でじわじわと見開かれる瞳が愛らしい。 「丁度こうしたいと思ってたところだったから助かった」 そう言ってくしゃりと頭を撫でればピカピカと光り出すボルサリーノはやっぱり人間じゃなくて妖精なんだろう。 こんな可愛い存在、そうでもないと説明がつかない。 人に話したらまた頭の心配をされるため誰にも打ち明けられない惚気を真剣な顔で考えて、おれはボルサリーノの殺気の犠牲になった部下に心の中で頭を下げつつ幸せを噛みしめた。 |