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最初アルバから見聞色が得意なやつにはどうせすぐバレるだろうからとこれまでの事情とこれからすることを聞かされたときには、はっきり言ってこいつこんなにゲスい男だったのかと驚愕した。
いい歳して年下の男に入れ込んだあげく混乱して馬鹿をやっているお頭もお頭だが淡々とした様子で自分が所属する海賊団の船長の恋心を弄ぶアルバはそれとは比べ物にならないくらい最悪だ。
日常的に自然と拾い上げてしまう感情の様子からお頭がアルバに惚れていることには薄々感づいていたが、正直見る目がなさすぎるんじゃないかと思う。
それほどドン引きして、お頭にわざと聞かせるための愚痴の相手になってくれと言われたときには嫌悪感すらわいたものだが、なんというか、まあ。

「お頭はひどい」
「……おう」
「あれだけ、毎日構ってきてさァ、にこにこうれしそうにして、毎日、ずっとそうだったら、それが普通だと思うだろ」
「そうだなァ」
「それを、いきなりさァ……おれなんのためにふねにのったんだよォ……」

酔って愚痴るのを聞いているだけでいいからと言われて勝手に二、三杯飲んで酔ったふりをするんだばかりと思っていたが目の前でクダを巻くアルバは間違いなく立派な酔っ払いだった。
しかも酔いに任せてストレートに伝わってくる感情に嘘くささは全くない。
つまりアルバはお頭を傷つけるために演技しているのではなく、心の底から、本心で愚痴を吐いているのだ。
嘆きも苛立ちも虚無感も並みのものではなく、こうなるとさすがにここ最近のお頭の態度が余程ストレスだったのだろうと予測がついた。
訳も知らぬままクズ男扱いしたのが申し訳ない。
とはいえおれにしてやれることなどないに等しく、せめて頼まれたことはしっかりこなそうと呂律の怪しい愚痴に相槌を打ち続けているとアルバがぽつりと「船、おりようかな」と呟いた。
小さな声だ。
目の前にいるおれにだってギリギリ拾えるかどうかというほどの。
しかしアルバが呟いた瞬間湿っぽい酒盛りの場に地獄が現れた。
お頭が、こちらを見ている。
表情をなくし、ありとあらゆる負の感情を纏って。

「はあ…………聞いてくれてありがとな。お頭来たしおれもうねるわ」
「おいおい待て待て、おれを置いていくな!待てって!」

漏れ出た覇気に酒を飲んでいた連中が静まり返ってお頭を凝視しているし、お頭はアルバのことを凝視している。
アルバに置いていかれたら視線の標的は間違いなくおれに移るだろう。
幸いにもお頭は飲みかけのワインの瓶をひっつかんで席を立ったおれを、というか、アルバ以外の存在を認識していないようだ。
さっさと部屋に戻って一人で飲み直そう。



そういえばあれほど執着しているくせにお頭の気持ちを受け入れるという選択肢はないのかと聞くのを忘れたなと思ったが、これ以上関わりたくはないのでもう一度忘れることにした。
所詮は他人の色恋沙汰。
やりたいようにやらせておくのが一番だろう。
たぶん。