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今の状態じゃもしアルバが船を降りたいと言いだしてもあんたの味方はできねェぞとベックマンから忠告されてギクリとした。
言われたことが現実になっても仕方がないほど酷い仕打ちをアルバにしているという自覚はあるのだ。
気持ちを知られていてそのうえで牽制されているのではと焦り混乱していたとはいえ、嫌われたくないがために嫌われるような行動をとるなど本末転倒にもほどがある。
そうわかっているのになぜ何日ものあいだ態度を改善することができていないのかと言えば、それはシャンクスがおかしくなってしまっているからに他ならなかった。
いまに限っての話ではない。
アルバに恋してからというもの、シャンクスはずっとおかしいままだ。


お頭、と他のクルーが口にするのと同じようにシャンクスを呼ぶ声がどうにも特別に聞こえると気づいたのはアルバが仲間になってすぐのこと。
恋はハリケーンとはよく聞くがアルバへの想いは吹き荒れる風のような激しいものではなく、むしろ降り続けてはじわじわと地面に染み込んでいく雨のような、静かで穏やかなものだった。
いっそハリケーンであれば玉砕を恐れず勢いに任せてアピールすることもできただろう。
一度や二度といわず十度や百度断られたってそれで諦められる恋でもなし、シャンクスの海賊らしい気質からして積極的に奪いに行く方が楽だったのは言うまでもない。
しかし駄目だった。
アルバに拒絶されるのは想像するだけでも恐ろしくて、そんな目に合うくらいならはなからゼロに等しい可能性になど賭けることなくアルバの傍にいられるだけで満足していたほうがずっとマシだと思ってしまった。
欲しくて欲しくてたまらないものが目の前にあるのに行動を起こせないというのは酷く苦痛で、けれどそのぶんアルバから向けられる信頼や好意はとても甘美なもので。
このままでいい。
このままがいい。
このままなら、きっとアルバが離れていくことはない。
そんなふうに自分に言い聞かせるようにして過ごしていたものだから、本来の自身の性質に背いて隠しきれないほどの恋情を隠し続けた末に酔ったアルバから過去の失恋の話を聞かされたときには愕然として血の気が引いた。
告白もしていないのに拒絶をうけることがあるなんて考えもしなかったのだ。
その場はなんとか笑顔を貼り付けてやり過ごし、部屋に戻ってから震えが止まらなくなった。
このままでは自分も本当にアルバの話のようになってしまうかもしれない。
いや、むしろさっきのあれは、調子に乗って距離を縮め過ぎた自分への遠まわしな拒絶だったのでは。
考えれば考えるほど嫌な想像が頭をめぐり、想像のはずのそれが真実であるかのように思えてきて飲んだ酒も手伝って吐きそうになった。
そうして氷のように冷たくなった右手を握りしめ込み上げてくる吐き気に堪えながら少し距離を置こうと決めたのは間違った選択ではなかったと思う。
間違えたのは『少し』の加減だ。
いつも通り笑顔で駆け寄ろうとしてくれたアルバを避け、緩んでしまいそうになる顔を誤魔化すために睨みつけ、これはまずいと思っているうちにどんどん深みに嵌っていく。
宴の翌日以降のアルバの様子であれは牽制ではなかったのだと理解したのにベックマンの忠告を受けてもなお態度を軟化させることができず、まるで制御が壊れてしまったように言うことを聞いてくれない心身に頭を抱え、そうこうしているうちに普通だったはずのアルバまでシャンクスにつられるようにしておかしくなった。
いや、そうではない。
これまでいつも通りに接してくれていたのが奇跡だったのだ。
現状の酷さを考えればもっと早くに心が折れていたって変ではなかったのだから。

アルバが変わってしまったのは、この状況は、間違いなくシャンクスの自業自得だ。



「ーー船、降りようかな」



自業自得の結果に対し、許せないと思うのは傲慢か。
そうだとしてもアルバの口からこぼれ落ちた言葉をシャンクスは許容することができなかった。

離れるなんて許せない。

何かが大きく軋む音がした。