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簀巻きを解いてもらって早々に二日酔いと船酔いのコンボをくらって惚れた相手の目もはばからずに淵から身を乗り出しゲエゲエやっているおれと、そんな悲惨な状態のおれを心配もせずこれからの冒険についてあれやこれや話しをしているレイリーとロジャー。
なあおい、なんだこれ。
おれ、絶対いらないだろ。
訴えるようにレイリーを見つめてみるが確かに交わったはずの視線はすっと逸らされ、直後何事もなかったかのようにロジャーとの雑談が再開される。
そのついでにおれの吐き気も再開された。
込み上げる気持ち悪さが胸と喉を焼く。
二日酔いも船酔いも伝説の始まりに割り込んでひたすら嘔吐いているおれという存在もなにもかもが気持ち悪い。
レイリーはどうしておれを連れてきたんだろう。
どうして何も言ってくれないのだろう。
もしかしてロジャーの前であんなふうに断ったことに腹を立てて、そのあてつけにこんなことをしでかしたのだろうか。
おれに嫌がらせをするのが目的なのだとしたら大成功だ。
おれはいま、本当に泣きたくて仕方ない。
ガンガンと痛む頭でそんなことを考えながら青い海に消えていく昨晩のごちそうのなれのはてをぼんやり眺めていたおれは「よし、隙をついて逃げ出そう」と心に決めた。

ーーその決心を実行に移すことができなかったのはどこぞの島に到着した後、もといた島まで乗せて帰らせてくれる船を探そうとしたとき船番という名の昼寝にいそしんでいたレイリーがタイミング悪く目を覚ましてしまったためだ。
あるいは最初から寝てなどいなかったのか「どこへ行くんだ」と尋ねてきたレイリーの声は、冷静過ぎる、いっそ冷たくすら感じるものだった。

「どこへ行くんだと聞いている」
「……ちょっと、トイレに」

重ねられた問いかけに答えた声が震えて裏返りそうになった。
もし逃げるところを見つかったら正直に「海賊にはなれないから帰らせてくれ」と言うはずだったのに、無表情のレイリーの気迫がそれを許してくれない。
ゲロっていたおれを無視したのはなんだったんだと聞きたくなるほどじりじりとした視線に晒されその場しのぎで吐いた嘘にレイリーの顔がぐうっと歪んでいく。
癇癪を起こした子供がいまにも泣き出しそうになっている。
そんな、レイリーにはおよそ似つかわしくない怒りの表情。

「嘘だな」

ぽかんとしているうちにあまりにきっぱりと言い捨てられ、思わず「ああ、うん、ごめん」と返すと間髪入れずに「嘘つきめ」と詰られた。
海賊かつ誘拐犯という立派な犯罪者であるレイリーに嘘つき呼ばわりされるのは理不尽な気もしたが、それでもまだ生まれてすらいないであろう超新星の口癖を借りて「違いない」と頷いてしまうくらいおれは動揺していた。
なにせレイリーのこんな顔を見るのは初めてのことだ。
以前酔いに任せて無理矢理キスしたときだって殴られこそしたがこんな顔はしていなかったと思い返し、動揺が増す。

「……お前は、おれのことが好きなんじゃなかったのか」

おろおろしているうちに口を開いたレイリーが、とても今更なことを言い出した。
好きに決まってるだろ。
そう返そうとして、しかし「なぜついて来ようとしない、なぜ逃げようとするんだ」と続けられた糾弾の言葉に瞠目してレイリーをじっと見つめる。

「もしかして……レイリー、ついにおれのこと好きになってくれたのか!」
「違う!」
「だよな知ってる!」

勿論冗談、ジャパニーズ自虐ジョークだ。
三年間フラれ続けたのに今更レイリーが絆されてくれたなんて夢を見れるほどおれはポジティブな人間ではない。
しかしならどうしてそこまでおれなんかに固執するのかと首をかしげていると、勢いのいい返事に呆然とした後なんとも言えない微妙な表情をしていたレイリーがじわじわと眉間に皺を寄せるとチィッとお手本のように鋭い舌打ちを炸裂させた。
堂に入りすぎている仕草は不良やチンピラではなく本職の自由業の方のようだ。
惚れた欲目で見てもちょっと怖い。

「おれは……ただ、まずいメシで酒を飲みたくないだけだ」
「メシ?」
「おれは料理はできん。ロジャーに期待するのも無駄だろう」
「はあ」

言っていることは、まあわからないでもない。
航海をするには食料と栄養の管理ができる人間、つまりコックが必須だ。
しかしレイリーがまともに料理しているところなんかこれまで一度も見たことがないし、ロジャーも昨夜会話した限りでは食べる専門の人間である。
その点おれは元の世界でしっかり自炊をしていたし、三年間店で料理の腕を磨いてそれなりのものは作れるようになっている。
酒場を利用する海賊や船乗りから航海で気を付けるべきことを聞いているのも利点だろう。
なるほど、そう考えればおれは確かに、原作の主人公の仲間たちのような活躍は到底できないまでも真っ当なコックを引き入れるまでのつなぎとしてはそこそこ優秀な人材なのかもしれない。
利用価値があるからといって便利な道具を持っていくように人を攫うのはどうかと思うものの、役に立てるなら嬉しいと思ってしまうのが惚れた弱みというものである。

「……そうだなァ、レイリー好き嫌い多いし、ロジャーも放っておいたら肉ばっかり食って野菜不足で死にかねないしなァ」

そんな割と洒落にならない未来予想を口にすると、どこか憮然としながらふんと鼻を鳴らしたレイリーに「わかったなら黙ってついてこい」と亭主関白じみた言葉を投げつけられた。
レイリーとロジャーとの冒険。
無理だと思っていたけれど、もう少しだけ一緒にいてもいいのだろうか。
きちんとした仲間が見つかってお前はもういらないと捨てられるまで、もう少しだけ。

気恥ずかしさ半分、虚しさ半分で「じゃあ未来の海賊王であるロジャーのためにも一肌脱ぐとするか」と笑いかけるとレイリーに鳩尾を殴られた。
素直に「レイリーのため」と言ったって受け取ってはくれないくせに、酷い男だ。