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「おれが本気でキスしたら、お前、絶対にメロメロになると思うわ」

ひと月ほど前しかけたキスになにやら生温い笑みを浮かべてそう言ったアルバをぼんやりと思い出し、思い出したそれに対する何かしらの考えがまとまる前に散らされていくのを感じてサカズキはぐっと眉を寄せた。
普段であれば怒りや不快を表すはずのその小さな動きは、しかしアルバの舌に与えられる感覚のせいでどうにも上手く決まらない。
切なげな、ともすればだらしないと評されるであろうサカズキの表情に気づいてか、口内を蹂躙するのを中断して顔を離したアルバが唇を歪めていやらしげに笑った。

「お前、今すっごい顔してるぞ」

うるさい、と怒鳴りたいのにサカズキの舌は痺れたようにひくりと痙攣するのみでちっとも思うように動いてくれなかった。
いや、舌だけでなく顔も身体も脳みそも何もかもだ。
半開きの口の中、歯の上にちょこんと舌を乗せたままはぁはぁと息をついてアルバを見つめることしかできなくて、飲み込めなかった唾液が顎を伝う。
きっと酷い顔をしていることだろう。
酷く情けない、物欲しそうな顔を。

「それにしても、こんな壁際で試すんじゃなかったな。寄りかかってる状態じゃ腰が砕けてるかどうかわかりづらい」

アルバと壁に挟まれてようやく体勢を保っているサカズキの状態なんてわかりきっているだろうに、心にもないことを言って仮眠室のベッドへ誘おうとするアルバになけなしの理性が警鐘を鳴らした。
なんとか息を整えて具合を確かめるように歯を食いしばり「仕事中に何を考えちょる」と唸り声を絞り出す。
付き合いだしてそれなりの月日は重ねたが今しばらくそういった行為はしない、と決めたのは他ならぬサカズキ自身だ。
一度箍が外れるとなし崩しに許してしまうことになりかねないと頑なに守ってきた一線を、こんなところで越えるわけにはいかない。
そう考えて潤んだ瞳を誤魔化しながらギッと睨みつけたサカズキにアルバはきょとりと目を見開いた数秒後、面白くてたまらないというようにくつくつと喉を鳴らした。

「なんだよ、サカズキってばエロいなァ」
「……あァ?なんじゃと、」
「だって、キスしてるだけなのにそんなに一生懸命になって拒否するなんてさァ」

それってベッドで続けたら流されちまうから駄目ってことだろ?と問われてサカズキは思わず言葉を失った。
反射的に何か言おうとして開いた唇を再度塞がれ、熱い舌にぬるりと上顎を撫でられる。
どうにかして拒もうと必死に舌を動かすが、簡単に絡めとられてしまうのではキスの深さが増すばかりだ。
身体の中心に響くような淫猥な水音にずるりと腰が落ちた先で足の間に入っていたアルバの太腿にぐりぐり股座を刺激され、鼻から自分のものとは思えない甘ったるい声が抜けた。
痺れる。
舌が、身体が、頭が、痺れてなにもわからなくなる。


「――なあサカズキ、ベッド行こうぜ?」


そんな言葉に自分がなんと反応したかもわからないまま、サカズキはくたりと力の抜けきった身体を舌なめずりして笑うアルバに委ねた。