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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「アホ峰君このテスト結果は何なんでしょうかこの大馬鹿野郎が」
「わ、悪かったよ」
「俺が毎日出したプリントをやってればこんな点数にはなりませんよね?」
「………」

黙り込む恋人ことアホ峰に溜息を吐く。追試決定になった目の前の馬鹿をどうしてくれようかと真面目に悩む。先輩に顔向けできない、ていうかどんな構造なんだこいつの頭は。

「プロの選手になるんならせめて英語くらいは出来ないと駄目でしょう」
「通訳連れてくから平気だろ」
「通訳になんでもかんでも読ませる気ですか、この馬鹿は」
「だってよー…」

今のままこいつをアメリカに放り込んだら絶対野垂れ死ぬ。そのためには多少酷かろうと必要最低限の英語は叩き込まないといけないというのに本気で通訳に全部やらせる気らしい。

「…わかりました、こうなったらこちらにも考えがあります」
「は?」
「次の試験、英語で落とした点数分の秒数、人前でキスしますから」
「え、な、ちょ、え?」
「拒否権はありません、ゼロ点なら百秒、きっちりやりますから」
「ちょ、ちょっと待てよ」
「待たない。ほら、このままだと長い長いキスになりますよ?…プロになって行きたいんでしょう、アメリカ」

慌てる青峰にアメリカの方向を指差すと、数秒、惚けた顔をして指差す空を見上げている。今日は快晴で雲一つ無い空の先に、彼の夢が見えたのだろうか。
空を見上げ続ける彼の耳元で「一緒に着いてくくらいしますから」と囁くと、真っ赤な顔がこちらを向いた。

人差し指の先
(アメリカなら同性婚できますしね)


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「ちゃんと部活に出ろ」
「ハイハイ、すみませーん」
「僕は部活に出ろと言っている」
「善処しまーす」

煩い部長様に耳を掻きながら告げると後ろの奴等が謝れとジェスチャーするのが見えた。仕方ねぇじゃん、面倒なんだから。つかなんで俺だけなんだよ、もっと強い奴いるだろ絶対。

「その言葉はこの間も聞いた、僕は明確な返事が欲しいんだ」
「こないだ明確に言ったらキレたじゃないっすかヤダー」
「それはお前がめんどいの一言で終わらせたからだろう!」
「だって正直に言えって赤司サマが言うから」
「少しは歯に衣を着せろ。あと、赤司サマは止めろ」
「いやー、俺まだ殺されたく無いんで」

ズカタカオヤコロって自分で言ってたじゃん、前。
俯いてぷるぷるし始めた赤司サマにこれは来るかなと一歩づつ後退すると次の瞬間足元に突き刺さる鋏。やっべ、と溢して後ろを向いて猛ダッシュすると意味を成さない叫びとともに投げ付けられる大量の鋏。いったいどこにそんなに持ってたんだとツッコミたくなるが捕まると後が怖いため全速力で走り去る。毎度よく無事で済むよなという親友のからかい無言で手を振って、小さな暴君から逃げて疲弊した体を椅子に預けた。

親指を噛む
(何故逃げるんだ…!/ 何故俺なんだ)



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今日の運勢は悪くない方だった。だが電柱にはぶつかるし高尾は寝坊するし朝練でボールを頭にぶつけられるしで散々だった。あまつさえ──

しんちゃん

すれ違いざまにクラスメイト壁に押し付られ、にやにやと歪む口に名前を呼ばれる。
ジャラジャラ付けたチェーンや指輪が鬱陶しい。まだホームルーム前だというのに何故こんな時に限って誰も廊下を通らないのか、高尾くらい来てもよさそうなものだ。おは朝がこんなに外れるなんて、ラッキーアイテムを持たずに出たせいだろうか?

「まーた高尾のこと?」
「…違うのだよ」
「なら、おは朝だ。」
「それも違う」

見透かされた気がして悔しくなり否定すると、穏やかな瞳が傾きホントに?と問い掛けられる。普段教室で馬鹿笑いしているのが嘘のように落ち着いた様子に逃げなければと頭が警鐘を鳴らすが体は言うことをきかず、身動ぎすることしかできない。

「逃げねぇんだ?」
「煩い、早く退くのだよ」

やだ、と即座に答える口が憎らしい。体を押して逃げようとするとすぐに手首を掴まれて顔の横へと縫い付けられる。ごつごつした指輪が当たって痛い、傷が出来たらどうする気だと非難の意味を込めて睨み付けてみたが、奴はどこ吹く風で穏やかな笑みを浮かべたまま俺を見つめている。
逃げなくては。逃げなくてはこのまま、こいつに、こいつに。

「しんちゃん」
「…なんなのだよ」
「好きだよ」

こいつに、ほだされる。
近づく顔に顔を背けると、潰れやすい果物を扱うように丁寧に奴の方を向かされ、そっと唇を合わせささられた。

「やめ、やめるのだよ」
「やだよ、だって…」

もう一度近づく顔に慌てて首を横に向けるが頬に指輪だらけの手が当てられて、優しく奴の方に向けられてしまう。

「しんちゃん、本気で嫌がってねぇから」
「なっ…」

ふざけるなと叫びかけた声は再び重なった唇に飲み込まれた。恐らく一分二分だろうが時間が異様に長く感じられる。やっとキスが終わり、顔が離れて行ってようやく指の違和感に気が付く。

「今日ラッキーアイテムねぇんだろ、貸してやるよ」

指にはいつの間にか毒々しいデザインのシルバーリングが嵌められていてキスでぼんやりした頭で位置を確認し、その意味にまで思い至って顔が熱くなる。
文句を言おうと顔を上げるが奴は既に視界から逃げていて、辺りには授業五分前を告げる予鈴が響いていた。

薬指とリング
(こんな顔で教室に行けと言うのか馬鹿)



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休み時間のチャイムが鳴り、一人の男子生徒が廊下に躍り出る。彼はキョロキョロと辺りを見回し、走り出そうと足を踏み出……そうとした。

「…先・輩」
「どわぁぁぁぁぁぁ!」

その瞬間耳元で聞こえた声に絶叫した彼を誰が責められようか。まして、それが彼の天敵なら尚のこと。
振り返った先で笑うシャラライケメンに裏拳を一発かまして距離を取るが、シャラライケメン──黄瀬は笑顔で立ち上がるとじりじり彼との距離を詰め始める。

「な、なんで階すら違う一年のお前が授業終わり五秒後に現れるんだ!」
「やだなぁ、そんなの…愛の力ッスよ」
「答えになってねぇぇぇぇ!」

実際は授業が終わる三分間に教室を飛び出してスタンバイしていたらしく、後ろで一年現国の山中先生(56)が泣いているが今の両者には相手のことしか見えていない。距離を詰められる度に距離を取る、タイミングを間違えば未来は無いと息を飲みかけ、周りの生徒が被害を被らない程度の距離で見守る中、

「ひ(る)だぁぁぁぁぁぁ!」
「煩いぞ−、早川」

ガラッと勢いよく二人のすぐ横のドアが開かれ、黄瀬の肩が跳ね、その隙にとばかりに弁当を片手に三年の教室へと走り出した。

「あぁっ!待ってくださいッスー!」
「誰が待つかぁぁぁ!」

既に海常の日常になりかけている光景にまたかと溜息を吐く者、それでも黄瀬君素敵と見つめる者、応援の声をかける者、今日はどちらが勝つかと賭けを始める者が出てくる。ゴールは三年の笠松のいる教室、昼休みの猛レースに手を出そうとする者は既にいなかった。

中指を立てて
(数分後の悲鳴が試合終了の合図)



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「あ、黒子君だ」

そう言って走ってくる君がどんなに眩しく見えるか、君は知らないでしょう。

「こんにちは、ミョウジ君」
「うん、こんにちは。黒子君は今から帰るの?」
「はい、今はテスト期間なので部活が無いんです」
「そっかぁ、なら、一緒に帰ろ?」
「喜んで」

いつも笑顔の君を見る度、僕は幸せな気分になるんです。君はいつでもどんな人混みの中でも僕を見つけてくれる、キセキの皆や部活仲間でも見失う僕を見つけて「あ、黒子君だ」と笑顔で来てくれる。それがどんなに嬉しくて幸せか、きっと他の誰にも分からない。
幸せを噛み締めながら歩いていると大セールと掲げられ人でごった返す商店街の入口が見えた。

「うわ、商店街混んでる…でも、ここからじゃないと家まで遠いしなぁ」
「あの、僕は遠回りでも構いませんよ?」
「えー、駄目だよそんなの」

君と長くいたいからと言えば気持ち悪いと言われるでしょうか?もう一度だけ構わないと伝えようとしたら暖かい手が繋がれて肩が大きく跳ねてしまった。

「だって、せっかく黒子君が部活休みだから、早く帰って一緒に遊びたいもん。こうしてればはぐれないから一緒に行こう?」

その言葉に頷くしかできない僕に笑顔のまま手を引いてくれる。手から鼓動が伝わらないかと少女漫画のようなことを考えながら歩く僕をどうか気にしないでくでください。
僅かに見える出口まではまだ遠く、もう少し勇気が出たらマジバに寄ろうと提案してみよう。きっと君は笑顔で頷いてくれると信じているから。

手をつないで
(一分一秒でも長く)



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「ナマエちん先輩、あーん」
「人が見てるだろうが」

部活の休憩時間、いちゃつく巨大な一年と小さな三年を見ながら、バスケ部の面々はひっそりと溜息を吐いた。
トトロよりデカいレギュラーの紫原が身長140ちょっとしかない三年でマネージャーの宵月れおを抱き抱えているのをグリズリーがテディベアを抱いている空目をしながら雑談やボール磨き勤しむふりをしつつ横目で二人を見守る。正直いつか潰しそうで怖いというのがバスケ部の総意だった。

「ナマエちん先輩つめてーし」
「お前が人の頭上で菓子食うからだろうが、こぼしたら今日一緒に帰らねぇからな」
「むー…」

乱暴に言われて食べようとしていたクッキーを一口で口の中に放り込む紫原の頬をいい子だ、と小さな手が撫で、それにふにゃりと微笑んで擦り寄る様は猫のようだ。何だかんだでラブラブなのは分かった。分かったから部活中にいちゃいちゃすんな帰ってからやれ。
唯一止められそうな氷室はニコニコしながらやぁ今日も仲良しだねと穏やかに見てるだけでアメリカ育ちなのを少し恨むことにした。

「ナマエちん先輩、今日も部屋行ってい?」
「ちゃんと部活やったらな」
「ちゃんとやる!だから、指切りしよ?」
「しょうがねぇな…」

指を絡める二人をよそに周囲(氷室除く)には衝撃が走っていた。今日も、だと…?まさかもうすでにあの合法ショタっ子に魔の手が伸びているのかと邪推し、可愛いマネージャーが壊されるのを何とか阻止しようと計画しかけた次の瞬間、

「あ、でも今日はエッチはしねーから!」
「何でだよ、あんなよがってた癖に」
「よがってねーし!それに、その…ナマエちん先輩のデカいからやだ!」

今度こそ全員(氷室除く)の時間が止まり、次の瞬間体育館内が絶叫で埋め尽くされる。
混沌とした体育館の中、仲良く小指を繋ぎ疑問符を浮かべる二人とその二人を微笑み見詰める氷室だけがその後の罰走を逃れたという。

小指の約束
(あ、ナマエちん先輩にお菓子買わねーと)



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屋上にサボりにきたら眠っている灰崎君が見えた。
相当深く眠っているのか僕が横に来ても気がつかない彼の寝顔を見ながら戯れに髪を摘まんだりする。想像よりもふわふわとしたドレッドを触っていると不意に灰崎君の目が開き、僕を見つけて機嫌悪そうに眉間に皺が寄る。

「こんなとこで何してんだよ、猫被り」
「サボりだよ、決まってるじゃないか」
「ハッ!こんなのが生徒会長とか、世も末だな」

鼻で笑うものの帰れと言われなくなったのはいつだったかな、思い出しながらそのまま寝転がる。
今日はいい天気で、こんな日に授業を受けるなんて馬鹿らしい、と言うと確かになと灰崎君は笑って持ってたガムを僕にもくれた。
君が隣にいるのを許すのも気まぐれにお菓子をくれるのも僕だけ、そう思うと幸せな気持ちでいっぱいになる。だから、僕からのプレゼント。

「これ、あげるよ」
「おー…?中々いいデザインのブレスレットじゃねぇか」
「商店街のクジで当たったんだけど、僕には似合わないから君にあげる」
「サンキュー」

本当は散々悩んだんだけど、君が喜々として着けてくれるなら僕は嘘も平気で付くよ。
あぁ、可愛い灰崎君。ピアスは贈ったね、髪を止めるピンもあげたね、校章は無くしちゃったって言ってたから僕のを付けてるね。次は君のどこをプレゼントで拘束しよう?
顔が笑っていたらしく、灰崎君に声をかけられる。なんでもないよと答えて、スポーツマンとしては細いその首をそっと見つめた。

手首に掛かる欲望
(増えていくプレゼントの意味)