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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




3k(・暗い・こわい・キミがいない)


side主

「危機感が無いって言ってるんだよ!」
「うるさいねェ〜。...大体、君よりわっしのほうが強いでしょォ〜」
「そういう問題じゃねえよ」
今俺の目の前で唇を尖らせている男は、俺の後輩であり、俺と同じ少将という位であり、今日部下の男に誘われて食事に行こうとしていた男であり、そして俺の恋人であるボルサリーノだ。
「確かにお前は俺より強い。なんで少将なんて地位に居るのかわかんねぇくらいにな。能力者であり覇気使いだ。そんじょそこらのヤツじゃぁまず勝てねえ」
「なら__
「だがなあ、能力者なんて簡単に捕まえられるんだよ。この世で一番広い海が弱点。大量の水もダメ。海楼石をつけられたらひとたまりもねえ」
納得がいかないという顔のボルサリーノを真正面からみたまま、俺はそのまま話を続ける。
男であっても関係ない、寧ろ男の方がいいと思っている奴だって沢山いること。妙な執着をもって付きまとう奴がいること。権力を振りかざして手に入れようとする奴がいること。その他にもクドクド続けていたら、ボルサリーノは強烈な光を放った後「うるさいねェ...。迷惑だよォ〜」とだけ言って文字通り、姿を眩ませた。

「...ぁぁああああ!伝わんねぇ!」
俺は口が上手い方でも、素直に感情を伝えられる男でもない。今回だってボルサリーノを食事に誘った部下が、ボルサリーノに対して一定以上の好意を寄せていることを知っているから、心配し、嫉妬したまでのことだ。
その感情を包み隠さず伝えれば、こうやって馬鹿みたいに、いつも同じ喧嘩をしなくて済むことを俺は知っている。
「だからって言えるかよ...クソがっ」
「おやおや、君が物に当たるなんて珍しい。...いい事でも有ったかい?」
悪態とともに床を蹴ったと同時くらいに背後から聞こえた、人をおちょくった言葉を選ぶ声の主は、俺とボルサリーノ、プラス数人の少将を纏めている中将だった。
「......相変わらず...。......はぁ...いえ、なんでもありません」
相変わらず人を馬鹿にしたように喋るな、と言おうとして止めた俺を誰か殴るべきだ。
「おや?溜め込むと疲れるよ?大丈夫かい?」
なんて返ってきた日には、いっそこの人がいない方が世界は平和なのでは、と考えたほどだ。
「どうかなさったんですか?中将」
この人は人とコミュニケーションを楽しむ類の人間ではない。案の定、中将は次の任務について話し始めた。

「次の任務についてだけど」この言葉から始まった任務内容は、この人の性格以上に俺の頭を痛くさせた。
「次の任務についてだけど、天竜人の護衛だよ。ボルサリーノか君を、と考えていたのだが...」
そこで言葉を切るこの人は、俺が返す答えくらいわかりきっているだろう。
「私が行きます」
「...メリットは?君よりボルサリーノの方が強いが」
「だからこそ、です。ボルサリーノ少将は能力者ですので、天竜人の目にとまる可能性が俺よりも高い。今ここでボルサリーノ少将を失えば、海軍にとってかなりの打撃になります」
この人がわかりきっている事を聞いてくるのは、今に始まった話ではない。特に、重要任務・危険な任務の時は。本人が望んで任務に就いたという建前が海軍には必要だ。そうすれば海軍に向けられる憎悪の目が減る。正義を掲げているとはいえ、海軍を恨んでいるのは何も海賊だけではない。
(この人も、嫌な役回りを任されたもんだ)
「そうだね。それじゃあ、君と僕の隊で任務にあたろうか。任務は3日後。準備をしておいてくれよ」
「はっ!」
踵を返した中将だったが、数歩行ったところで顔だけをこちらに向け「残念だ。君からボルサリーノへの愛の言葉でも聞けるかと思ったんだが」本当に残念だよ。とニヤニヤした顔で宣ってから、今度こそ本当にこの場から去った。

どうやら、俺の周りで言い逃げをするのが流行っているようだ。


sideボルサリーノ

ナマエと口論をしてから2日が経った。言い逃げした手前此方から会いに行く事も出来ず、ナマエは忙しいのか一回も顔を合わせていない。食べに行く気分では無くなったから、部下からの誘いを断ったのだ。その事を言えばナマエの機嫌も少しは良くなるか、と思ったが会えないのでは意味がない。
そして自分は今日から任務で周辺の海域の見回りに行かなくてはならなくて、2、3日本部には戻らない。時間が経てば経つほど会いにくくなるのは子どもも大人も変わらない。
「わっしは悪くないけどねェ〜」
少しの罪悪感はあるが、しつこいナマエが悪いのだと、誰とも無しに呟いた。

あの後、結局ナマエのことは見つけられず、海域の見回りすら終わり、気づけばナマエと会わなくなって8日が経った。
今まで喧嘩をしても長くて4日でまた話せるようになっていたのに。
(何か、あったのかねェ〜...)
それとも...自分のことを、と不安に駆られた思考を頭を振って振り払う。疲れているから悪い方に考えが行くのだと、部屋へと足を進め角を曲がろうとした時、聞こえてきた噂話に足が止まった。

「聞いたか?中将と少将が天竜人の護衛任務に出てるって」
「その話なら俺も聞いたよ。海軍本部の中将と少将を動かせるたぁ、流石天竜人様様だよなぁ」
「おいっ!馬鹿っ!誰かに聞かれてたらどうすんだ」
慌てる兵士を横目に、そういえば自分の直属の上司である、人をおちょくる言葉を選んで話す中将の姿を最近見ていないな、と考える。中将と少将の組み合わせで、近頃姿を見ていない二人。まず間違いなく、もう一人の少将はナマエの事だろう。
だが、何故。天竜人の護衛ともなればナマエよりも強い自分に回ってきそうな任務である。
「ヤッベ!......なぁ、噂で聞いたんだけどよぉ、その天竜人が...あー...その、ソッチの奴らしいっていうやつ」
「ああ!それならオレも聞いたよ。お二人とも種類は別だが綺麗な顔してるしな...」
「帰ってくるかねぇ...権力に笠きせてってな」
「くわばらくわばら」

気づけばナマエの部屋のベットの上でうずくまっていた。どうやってここまで来たのかハッキリとは覚えていない。途中クザンやサカズキに会ったような気もするが、考えるという動作自体を脳が拒否するかのように、何も考えることができなかった。ボンヤリとした頭でわかることは、ナマエが自分を天竜人の元へ行かせないために、自分に何の言葉もなく任務へ行ったということと、二度と会えないかもしれない。ということの二つで、その何方も理解したくない現実だった。
「ナマエ...ナマエ......ナマエ、ナマエッ......」
名を呼べばそばに来てくれる暖かな気配は無く、不器用ながらに頭を撫でてくれる掌もない。口は悪いくせに優しい声も此処には無く、自分の嗚咽だけが部屋の中に木霊した。

扉もカーテンも締め切ってナマエの部屋に閉じこもって、一体幾日経っただろうか。カーテンを通して僅かに射し込む光を見るのは二回目か三回目か。もっと多いのか、はたまたまだ一回も日は沈んでいないのか。ナマエが近くにいなくなってから感じる時間の経過の遅さが、今ではどう進んでいるかすらわからない。
匂いは有るのに姿がないチグハグな空間に恐ろしさが増す。射し込む光の頼りなさに、この部屋はこんなにも暗かっただろうかと絶望する。
少しでもナマエがそこにいる時の明るさになるようにと能力を使って部屋を照らすが、光の質の違い、その行為の空しさに、ベットのシーツに顔を埋めナマエの温もりを探していた。
(くらい...こわい...ナマエ......ナマエッ...!くらッ...くらいッ...)
「ナマエ、ナマエッ......くらッ...い...。ナマエッ!くらいよォ〜...!」
「何処がだピカピカ光りやがって!」
(......え...?)
頭に走る衝撃とともに、自分が待ち続けていた人間の声が頭上から降ってきた。
「ナマエ...」
自分の声かどうか疑うほどに、頼りない声が喉からでた。瞬きすらも惜しんで見つめ続けるが消えることはなく、手を伸ばして触れれば求め続けた温もりがあった。


side主

任務から帰還出来たのは八日後の昼だった。精神的には何も無事ではないが、身体的には重症者も出ず護衛対象も無事。可もなく不可もない任務をこなし、事後処理を終えたのは夕方頃。疲れをとるぞー!と自然と逸る足を止めさせたのは、冷気を纏う青くひょろ長い男、クザンだった。
クザンの話を聞くところによると、ボルサリーノの姿を三日位前から見ていないということ。ボルサリーノのすべき書類は滞り、先程から俺の部屋がとんでもない光を放っているという。
光っている犯人など心当たりは一つしかない。
クザンも呆れ顔で「さっさと仲直りしなさいや」とだけ言ってゆったりと歩いて行った。

部屋の近くに来たタイミングで、あまりの光の強さにサングラスを持っていないことに後悔する。今度買いに行こうか、と頭の隅で考えつつ、体はボルサリーノの元へと動いていた。
目を瞑り、海軍のコートで目を隠し、気配を探ってボルサリーノの近くに寄る。
「ナマエ、ナマエッ......くらッ...い...。ナマエッ!くらいよォ〜...!」
俺の名前を呼びながら泣きじゃくるボルサリーノは正直可愛いいが、いかんせん眩しすぎる。この眩しさの中で「暗い」と訴えていることに可笑しさを感じながら、少し強めに頭を叩いた。
俺が居ないことを寂しく思ってくれるのは嬉しいが、書類が滞っていることに対しては少しばかり怒っている。
(あとで手伝わされんだろうな)
頭を叩かれたボルサリーノはボンヤリとした表情で俺を見上げてきた。びっくりしたのか光るのは止めており、目に涙は残っているが頬を伝うのは止めていた。
ボルサリーノが俺の名前を呼びながら手を伸ばしてくる。その手を拒否することなく頬に触れさせてやると、先程まで止まっていた涙が再び溢れ出てきた。
「うおっ!ど、どうした!?」
慌てて自分も頬に手を伸ばすも、すぐさま胸に顔を埋められて背に手を回される。俺の名前をつっかえながら何度も何度も呼ぶボルサリーノは、普段の飄々とした雰囲気からは遠く、庇護欲が掻き立てられるとともに俺に罪悪感を与えた。

泣くのが落ち着いたのは日がとっぷりと沈んだ頃で、三日間一睡もしていなかったボルサリーノは泣き疲れたのも相まって今は腕の中で寝ていた。
自分も任務帰りで疲れていたことを思い出し、思い出した瞬間疲れが襲ってきたのでボルサリーノを抱きしめながら横になる。
腕に中にある泣き顔を眺めながら、泣きながら訴えられたことを思い出していた。
曰く、自分に何も言わずに任務に行かれたことが苦しかったとか。
曰く、天竜人に奴隷にされて帰ったこないのでは、と不安になったとか。
今回任務の話を言わなかったのはワザとだからどうしようもないが、確かに何時も任務に行くときはその話をしていたし、行った後もでんでん虫で連絡を取り合っていた。此処まで互いに声を聞かなかったのも初めてだろう。
しかし、流石に天竜人とはいえ、自分を守る海軍に対して好き勝手すれば見放されるのでは、くらい考えているだろう。(確かに危ない時もあったが...)冷静になれなかったのは喧嘩をしたままだったからか、疲れが溜まっていたのか。まあどちらにせよ、もう少しくらい素直に成らなければいけないのだろう。今まであまり言ってこなかった所為もあるが、ボルサリーノはストレートな言葉に弱い。俺の言葉に顔どころか全身を赤くするボルサリーノを想像しながら、起きたら溜まった書類を手伝わなければ。と思いつつ、暖かな微睡みに身を委ねた。