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「#幼馴染」のBL小説を読む
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目を覚ますと見慣れた天井を背景にキレイな顔をしたモグラが視界に飛び込んできた。
おかしなことだ。
ここは五年生の長屋で、俺の自室で、なによりモグラが地上に出ているなんて。

「普段から地上にいることのほうが多いですよ、僕は人間ですから」
「……声に出てたか?」
「いいえ」

やはりモグラだ。
超音波か何かで心を読んでいるんだ恐ろしい。

「義助先輩」
「なんだ綾部」

俺の大好きなモグラ。
見るときはいつも穴掘りの最中か落ちた穴の中からで見下ろすことにも見上げることにも慣れているんだけど
こんな至近距離で見つめられると困ってしまう。
そもそも綾部はどうして俺の腹の上にのっかているんだろう。

「だめですか」
「だめじゃないよ……声に出てたか?」
「いいえ」

いくら細身でも男子一人分の体重は結構苦しい。
でも密着できてうれしいから我慢する。
あともう声に出てたか確認するのもやめる。
綾部はこういうものなんだと納得することにした。

「先輩が、倒れたって聞きました」
「ああ、うん。ただの風邪だし寝てれば治るよ」
「穴を掘って、待ってて。待ってたのに、掘っても掘っても先輩が全然来なくて」

「へ?」

「どこかに落ちてるのかと思って見に行ってもどこにもいないし」

まってて、くれたのか。
いっつも俺が一方的にかまってる感じだったから待ってくれているなんて全然思いもしなかった。
うわ、なにこれ嬉しい。

「そしたら先輩が倒れたって」

唐突に瞳の表面が盛り上がったかと思うと滑らかな頬にポロリと涙が転げ落ちた。
まさかの出来事、モグラが泣いた。
無表情なモグラはなく時まで無表情。

「綾部、綾部大丈夫だよ。ただの風邪だ」

ただ体温が平熱より四度ほど高くてめまいがして体がだるいだけ。
典型的なただの風邪だ。

「大丈夫じゃないです。大丈夫なら義助先輩は僕を見に来ます」

先輩は僕のこと大好きなんだから、と本人を前にして語る綾部。
なんということ、俺の秘めたる恋は本人に思いっきり知れていたらしい。
さすがモグラ。
というか、しかし、ひょっとして、これは満更でもない感じなのだろうか。

「なんで保健委員なのに風邪なんて引くんですか」
「看病してたらうつされた」
「なんで保健委員で風邪ひいてるのに保健室にいないんですか」
「他の人にうつすと悪いから」

そうだ。
感染拡大を防ぐために一人部屋である自室にこもったのにこんな密着してたら綾部まで風邪ひくじゃないか。

「綾部、俺は大丈夫だから自分の部屋に」
「嫌ですここにいます」

即答。
ならば俺が出て行こう。
保健室にいるみんなには悪いけど俺が原因で綾部が風邪ひくのは耐えられない。
腰に手を入れて綾部を腹の上から退かせた。
もっと抵抗するかと思ったが予想外に素直に立ち退いた綾部が布団と畳の間に鎮座する。
一応汗ばんだ寝巻を着替え(着替えている間ガン見された。恥ずかしい)髪を結ってから歩き出す。

「義助先輩」
「なん、あ!?」
「逃がしませんよ」

三歩歩いたところで転落した綾部穴には誰のものなのか、ふかふかとした布団が敷き詰められていた。
明らかに俺用の落とし穴だな、これ。
だーいせいこーうと間延びした口調で瞳を輝かせるモグラは、ああ、今日も愛おしい。


(モグラの巣穴へご招待!)