ああ眠たい。 まだ惰眠をむさぼっていたいのだが、もう起きなければまずい時間なのだろう。 だって目覚まし代わりの高笑いが聞こえだしてからもうかなりたっている。 きっと爽やかでパリッとした朝は永遠に訪れないだろうと思いつつ俺はしぶしぶ布団からはいずりだした。 適当に手ぐしで髪を整え制服に着替える。 毎日やることながら面倒くさい。 ここ数年役立っている目覚ましを止めるべく隣の部屋を覗き込んでみると滝夜叉丸はやっぱり一人で笑っていた。 彼の同室である綾部はさっさと起きて穴掘りに行くから仕方がないのだけれど、部屋で一人鏡に向かって笑い続ける滝夜叉丸は不憫に思えて仕方がない。 早く止めてあげよう。 「やあ、朝から元気だな残念くん」 「残念いうな!!……と、お前が起きたということはそろそろ時間か」 瞬時に反応した滝夜叉丸が名残惜しそうに鏡の前から離れた。 まったく、よくそこまで自分の顔を見て飽きないものだ。 俺は滝夜叉丸の高笑いで目覚め、俺が起きて準備を済ませるまで滝夜叉丸は鏡の前で自分を愛で続ける。 互いが互いに時計代わりなので今更この習慣をやめられても困るのだが。 「お前は本当に残念だなぁ」 「だから残念いうなと言っているだろうが!大体私のどこが残念だというのだ!?」 「いやどう考えても残念だろう」 その容姿と実力であとは性格さえ揃っていればパーフェクトだったのに残念にもほどがある。 黙っていればモテるだろうに。 「………残念」 「お前なんかだいっきらいだー!!」 哀れなものを見る目で眺めていると滝夜叉丸がなにやら喚き始めた。 嫌いとか、袖掴まれながら半泣きの顔で言われてもかなり説得力がない。 「そう。俺は滝夜叉丸のこと案外好きだけどね」 「え、いま名前」 優しく微笑みながらそう言ってやると滝夜叉丸がぱっちりと大きな目を見開いた。 俺は滝夜叉丸のことが好きで、滝夜叉丸は嫌いだといいながら俺のことが大好き。 わかってはいる。 けどさ。 わかってはいても傷つくんだ、やっぱり。 「袖掴まないでよ、しわになるだろ。ていうか大嫌いな俺にまだ何か用でもあるのかこの残念が」 「すごい怒ってる!!」 嫌われたとでも思ったのか必死の形相で謝りだした滝夜叉丸は本当に残念くん。 俺が滝夜叉丸を嫌うはずがないのに。 (俺の気持ちに気付かない君は今日も今日とて残念だ) |