「なあ留三郎よ、お前俺が巨乳好きなの知ってるだろ」 「おう、お前の女の趣味なら詳細まで把握済みだ馬鹿野郎」 義助は俺が一年生の頃からずっと自分を好いているのを知っているくせに笑顔で女を紹介してくる。 長くて一週間、短くて一日で変わる“彼女”を見て俺が苦々しい顔をするのが余程楽しいらしい。 最悪かつ最低かつ最高の馬鹿野郎、それが鴻池義助という男だ。 今まで紹介された女を思い浮かべると全員判子を押したように同じタイプばかり、みんな肌が綺麗で巨乳で決して太ってはいないが女性的な丸みを帯びた体つきだった。 つまりこいつは体でしか女を選んでいない。 仕方がないことだ。 だってこいつは最悪かつ最低かつ最高の馬鹿野郎なのだから。 そして、人格を無視されて選別された義助の“彼女”に仄暗い喜びを感じているのは、自分だけの秘密である。 「それで?それがどうかしたのか」 貧乳にでも目覚めたかと問うと、まさかお前じゃあるまいしと返された。 土下座で詫びろ。 確かにお前に乳はないが完全に筋肉な胸板と一緒にするのは貧乳に失礼だろうが。 いらっとしながら続きを待っていると突然義助がもじもじし始めた。 気色悪いのに面の造形のおかげで格好良く見えてしまうのがむかつく。 俺はこいつのどこが好きなのだろう。 顔か。 義助とたいして変わらない選択基準に嫌気が差す。 「あのさ、全然タイプじゃないのに気になるのは、恋なんだろうか」 「はあ?」 今こいつの口からあってはならない言葉が出てきた気がするぞ。 『恋』? 今まで誰にも本気にならなかったのに『恋』だと? 何を馬鹿なことを。 「一時の気の迷いだろう、そうに決まってるむしろそうじゃないと許さない絶対に許さない」 「何怖い顔をしてるんだ。まったくこんなんなのになぁ…」 とりあえず貶されていることだけはわかったので、乳どころの話じゃないのに、と謎の呟きを繰り返しながら首を捻る義助の腹を思いっきり殴った。 顔が殴れないのは、惚れた弱みという奴だ。 |