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真っ直ぐ見て思ったことを口に出す。
普段意識せずにやっているはずのこと。
それが、相手が鴻池義助であるというだけでとんでもない無理難題に変わってしまうのだから儘ならない。
本当は声をかけたいのだ。
ただ一言、それだけで義助のあの黒い瞳の中に私を映してもらうことができるのに。
義助と話がしたい。
私のことを見てほしい。
しかし同時に、話しかけて困惑されることが、気安さのない冷たい目を向けられることが恐ろしくて仕方がない。
義助は人を憶えるのが苦手だ。
六年生になった今でも同級生どころか同じ組の奴ですら欠片も覚えていないという人憶えの悪さで、だから、一年生のとき委員会で一緒になっただけの私のことなど確実に忘れているだろう。
知らないと、お前は誰だといわれるのが怖くて近づくことさえ躊躇ってしまう臆病な私のことなどは。
話しかけることも諦めることもできず、ただ遠くから見つめ続けていた。
人憶えの悪い義助なら同じ人間に見られていても不審がらないだろうと高を括っていた。

だから。

「お前っていつも俺のほう見てるけど、なんで?」

戸惑ったように聞かれて愕然とした。
だって、ばれているだなんて思いもしなかったのだ。
理由?そんなもの、言えるはずがない!

「えーっと、私、は、その」

焦りが焦りを呼びしどろもどろになっていると義助が不思議そうに首を捻った。

「なんだかイメージと違うな」
「え」
「いや……話に詰まったりするタイプじゃなかった、よな?」

「え」

あれ、そういえば。
なんで義助は私に話しかけて。

「…………義助、わたしのこと、憶えてる?」


まあ、と小さく頷いた義助の黒い瞳に、幸せそうな顔の男が一人映っていた。