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「仙蔵って俺のこと好きなの?」

そんな義助の言葉に間髪無く「好きなわけがあるか」と返せたらどれほどよかっただろう。
「ああ好きだぞ」と、しれっと答えてしまうのでもよかったかもしれない。
今なら冷静に考えられるのに、頭に血が上って間違ってしまった選択肢に戻ることはできないのだ。
だってあんな質問をされるなんて予想もしていなかった。
少しでも可能性を考慮していれば、なんて今更後悔してももう遅い。
なぜなら好きなのかという奴の問いに対し私の口から出てきたのは「あ」だの「う」だのいう言葉の切れ端だけだったのだから。
しかもその後顔は真っ赤で、恥ずかしすぎて逃亡ときた。
酷すぎる。
最悪だ。
いかに鈍い義助でも気付いてしまっただろう。
あれだけわかりやすい反応では気付くなというほうが無茶な話である。
長い間必死になって隠して『色に弱い義助を諌める良い友人』というポジションを守り続けていたというのにせっかくの努力が水の泡じゃないか。
義助は鈍いが馬鹿じゃない、むしろ賢いほうだ。
一を知るまでに時間はかかるが知ってしまえばそこから十を知る。
そんな義助に、私の一を知られてしまった。
これで、義助は今までの私の行動を正しく理解する。

ろ組だった義助に勉強を教えて無理矢理い組に引っ張りあげたわけも、
実習で断固としてペアを譲らなかったわけも、
義助に惚れた町娘に色目を遣ってなびかせたわけも。

きっと嫌われる。
そばにいられなくなってしまう。
どうすればいい。
どうすれば。


「まて、待て仙蔵!! 」


怖い、怖い。
後ろから追ってきた義助 が何かを叫んでいる。
怖い、怖い、嫌だ―――。




「俺も好きなんだああもう逃げるなチクショウ!!」