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「文次郎ちょっとごめん話があるからゆっくり落ち着いて怒らないで黙って聞いていて」
「……なんだ」
「俺、昔文次郎のこと物凄く可愛いと思ってたんだ」

あくまで真剣な表情でずいと顔を近づけた義助 の放った一言に唖然としたのは仕方の無いことだろう。

「お前目が悪かったか」
「黙って聞け」

昔がいつのことかはわからない。
しかし少なくとも思い出せる範囲の自分に可愛さなどという要素は見当たらないように思えて口を挟んだら苛々したように睨まれた。

「俺は文次郎のこと大好きでとても可愛いと思っていて、でもその感情は友達になったら消えたんだ。現実が見えたっていうか。ぶっちゃけ文次郎は嫌いじゃないけど可愛くはないよね」

何が言いたいんだ貴様は、という言葉をすんでで飲み込む。
義助に怒っても無駄だということはこの六年で重々承知しているから怒らない、が、しかしむかつく。
自分が可愛くないことくらい知っているのになぜ今更こんな嫌味のような確認をされねばならない。

「常に目の下真っ黒だし修行馬鹿だし予算くれないし変な鳴き声出すしそもそも俺よりごつくて老け顔の男が可愛いはずないっていうか」
「お前は俺を貶めにきたのか」
「怒るな馬鹿。なんでだか最近可愛く見えるのが再発したって話だよ」

最近やたら可愛いが恋でもしたか文次郎、と訝しげに見つめてきた義助を今度こそ部屋から蹴りだした。

「え、マジで!?誰、相手だれだよ教えろありえねぇそいつマジ殺す!!」
「うううううるさいだまれっ」

振り返った一瞬に火がついたような顔を見たのだろう義助が廊下で騒ぎ出す。
必死で戸を押さえる手に、じわりと汗が滲んだ。
義助と友人になったとき、もうこれで十分だと諦めたはずだったのだ。
一年生のころの笑い話にもならない初恋が卒業を前にして再発したなど。
それがこうも簡単に見破られるなど。
そんな、ばかな。