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「無茶言うなよ諦めて!」
「なんでだ義助!!」
「もう5年だぞ、今更すぎるだろ!?」

ああもうまた捕まった!
逃げ切ろうにも三郎のが総合で上だからどうしても先回りされてしまう。
なんとか撒こうと頑張った結果遁術だけやたらと成績が良くなったがそれでも三郎からは逃れられない。
三郎はいわずもがな、僕はろ組最下位で落第すれすれ。
差は圧倒的だ。
なのに。

「いいや今日こそ私と雷蔵見分けてもらうぞ!!」
「無理だってば!!」

5年間毎日のように繰り返されるやり取りはもはや様式美と化していた。
大丈夫できるできると熱く語られて頭が痛くなってくる。
一体自分の何がこうも三郎を刺激するのだろう。
そもそもふざけながらも妖者の術を日々極めようとしている三郎にとって自らと雷蔵を見分けられる存在など脅威でしかないはずだ。
誰にも見破られないように努力しながら凡人に変装を見破らせようとするなんて不毛すぎる。
すごい勢いに辟易としながらじっと顔を見つめるも、どこからどう見ても同学年の雷蔵となんら変わりない。

「……わっかんねー」
「雷蔵連れてくるから待ってろ!」

ぱっと身を翻し走り去る三郎を見送り逆方向に逃走する。
待てといわれて待つ馬鹿はいないのだ。
しかし本当に何故ここまで三郎に執着されるのだろう。
足音と気配を殺したまに足跡のフェイクをかけながら幾度となく考えた疑問を反芻した。
普段傍から見ているぶんでは三郎はもっと飄々としていて変装自体を楽しんでいる節があるように思うのだが、それが自分の前では一変する。
二年くらいまではありえないほどの突っかかられように嫌われているのか自分が悪いのかと悩んでいたが、
三郎は嫌っている相手にわざわざ関わる性格じゃないしそれはあるまい。
人をからかうのが好きで奔放で。

(いたずらの延長線?)

もしそうならばずいぶんと長期戦ないたずらだ。


「待ってろといったろうが!」

なんでそうふらふら動き回るんだお前はと二つ並ぶ同じ顔のうちの一つに説教され涙が出そうになった。
早すぎだろう。
雷蔵こそなんで毎度僕が三郎から逃げてることを知っていてこんなに早く三郎に捕まる位置をふらふらしているんだ。
なんだ。
仲良しさんか。
仲良しさんかちくしょうめ。

「ねえほんとお願いだよ今日はうどん屋が半額なんだよおねがいだから朝うどん食べさせてお願いだから」
「うるさいほらやるぞ義助」
「ごめんね、三郎はこんなだから。諦めてやって」

雷蔵、お前ってばホント、三郎の母ちゃんみたいだね。






「わからない…わからないもういやだ助けて雷蔵」

もうどれだけの時間がたっただろう。
相変わらず物陰からひょこひょこ顔を出す二人は表情までそっくりで、
僕にわかるのは太陽の位置から貴重な休日が少なくとも半分以上削り取られているということだけだ。

「大丈夫?義助」
「よーっしゃお前が雷蔵か!」

ことさら弱々しい声に釣られてよってきたこの男こそ優しい性格の雷蔵だろうと逃げられないように思い切り抱きこんだ。

と、木の陰から出てきた雷蔵の顔が一言。



「雷蔵は僕だよ」







「お前三郎かよ!!」
「三郎だよ!どうしてそうなんだお前は!!」

ぺいと腕の中から開放するとよほどに痛かったのか物凄い勢いで顔を顰めながら怒鳴られた。
よく考えると雷蔵ならやめようと言おうか言うまいかで延々迷うだろうからすぐによってきたのが雷蔵のはずなかったのに。
絶好の機会を逃したことに地団駄を踏んでいると「今日はもういい!」という魔法の言葉が聞こえてきたけどたぶんきっと気のせいだろう
最近もうどっちがオリジナルとか無視して雷蔵が三郎に似てるんじゃないかとか思ってきたし僕はきっと大分混乱してるんだあの三郎がもういいとか……

……




「え」

「もういいっていってるんだからうどん屋でもどこでも行けばいいだろ」
「いいの!?まだ昼過ぎだよどうしたの三郎体調悪いのうどん食べたいの!?」

今からじゃ朝うどんじゃなくて昼うどんだけど、と付け足す三郎の肩を捕らえてシェイクする。
おかしい。
いつもカラスが鳴いても離してくれない三郎がこんな時間に解放してくれるなんて異常だ。

「ちょ、やめ、ろ!うどんとか意味が」
「そうそうよく気付いたね義助、三郎はうどんが食べたいんだよ」

ガタガタ揺られながら反論していた三郎のセリフに重ねるように雷蔵が話し出した。

「え、本当に?」
「本当だよ。ねえ三郎お前耳真っ赤だよ
「っ……」

耳元で何か言われたのか完全に固まった三郎と雷蔵を見比べて首をかしげる。
どうにもおかしい。

「……ほんとに三郎で雷蔵?」
「私が三郎だっていってるだろ、なんで疑うんだ馬鹿!」

三郎の性格を考えれば疑い深くもなるとはおもうのだが、こんなことでケンカしたりはしたくない。
まだ肩にかかっていた手を払ってぷりぷりとしている三郎の腕を取り正門に向け歩き出す。

「!おい義助」
「雷蔵、僕ご飯食べてくる」
「はいいってらっしゃい」

笑顔で見送る雷蔵がなぜだか「がんばって!」と声援を送ってきた。
何をがんばるのか、誰ががんばるのかは不明だ。

暫く歩いた後「半額なんだから奢れよ」と小さな声が聞こえた気がしたが、それは完全に無視することにした。







(ていうかなんで三郎は僕に変装を見破らせたいの?)
(……自分で考えろばーか)