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【呪術】がんばる加茂くんと補助監督

第一印象は嵐のような人だった。
いや、それまで何度も顔は合わせていたし事務的な会話も交わしていたから第一印象というのは少し違うだろうか。
加茂憲紀の人生においてただの背景に過ぎなかった人。情報伝達や送迎など事務的以上の関わりを持つことはないだろうと無意識のうちに決め込んでいた人。
「加茂くん」と何か重大なことを伝えるような深刻な声で加茂を呼び止めたその人は、キョロキョロと周囲を見渡して他人の目がないことを確認すると唐突に「これよかったら」とスーツから取り出したなにかを手に握り込ませてきた。

「加茂くん、今日もすごいがんばってた!えらい!しっかり休んで!」

呆気にとられる加茂の頭をここぞとばかりに乱雑に撫でまわすと「じゃあね!」とやけに元気よく去っていった補助監督をぽかんと見送る。
ハッと我にかえって恐る恐る開いた手の中には何の変哲もないチョコバーと三角形のいちごの飴があって、今しがたの出来事が現実だったことを示していた。
えらい、と。今日『も』頑張っていたと褒められた。まるでただの子供にするように遠慮ない手つきで頭を撫でてもらえた。
自分の手には妙に不釣り合いに見える安っぽい菓子にどくどくと胸が鳴った。

***

クセつよ京都校メンバーをがんばってまとめる加茂くんを見守ってるうちに「この子めっちゃがんばる……いい子……心配……」ってなって甘やかしてあげたいゲージが限界突破した補助監督主人公が「加茂くんこれ!!」ってお菓子押しつけて頭撫でて「今日もすごいがんばってた!えらい!しっかり休んで!」ってぽかんとしてる加茂くんを勢いで甘やかすのを繰り返してたら主人公の姿を見つけた加茂くんがスッと居住まいを正して撫でられ待ちするようになった話。
この加茂くんは主人公からもらうジュースを大切そうにちびちび飲むし「加茂くんコーヒーが好きなんだって?いっつもジュースでごめんね!」ってブラックコーヒー渡されたらしゅんとする。子供扱いされたい。

***

加茂くんにコンビニお菓子とかジュースとかアイスとか押し付けてるとある日突然ちゃんとした老舗の和菓子返してくるんだけどこれは天然とかではなく「品のない側女の子だから」って体裁を整えるために過剰に俗っぽいものから引き離されて育った結果。感覚が狂ってる。
補助監督主が「時間ある?飲み物用意するから一緒にお茶しよう」って二人でいただいたあと「こんな立派なお返しもらえるようなことしてないから今度からはお礼は言葉だけで十分だよ」って伝えても加茂くんにとっては高級和菓子より主人公からもらうチープなコンビニ菓子の方がよっぽど価値のあるものだから納得できない。
そして納得できないでいるところに「加茂くんが元気でいてくれたらそれだけで嬉しい」って言われて嬉しくなっちゃう加茂くん。好感度がぐんぐんあがる。

***

「東堂くん?闊達で楽しい子だよね」
「(いやな顔)」
「でもああいう自由な子を集団に組み込むには苦労がいるよね。加茂くんは本当によくがんばってるよ」
「…………ありがとうございます」
「(すごい満足そうな顔になった……)」

***

他のみんなもそれぞれ努力してるし特別扱いされるほど自分一人が頑張ってるわけじゃないと思ってるけどそれはそれとして自分一人が特別に甘やかされることにものすごい快感を見出してそのうち『子供扱い以上』の特別も求めはじめる加茂くん。他の誰のことも褒めてほしくないし自分だけ見て自分だけ特別に甘やかしてほしい。
でも主人公が褒めてくれる『いい子の加茂くん』はそんなこと言わないのでお口チャック。なおポーカーフェイスが下手すぎて主人公には全部バレてる。

***

「今度の交流会、東京に勝てたら名前で呼んでください」
「やる気を削ぐようで悪いけど俺は勝てたらご褒美とかそういうのは好きじゃないんだ」
「……じゃあ、どうすれば」
「なにもしなくても君が望むなら名前くらいいくらでも呼ぶよ」

名前くらいならまだ大丈夫。
越えちゃいけない一線はまだ遠い。

***

子供扱い以上が欲しくなっちゃったけど求めすぎると今ある特別を失うことになるのでがんばって我慢する加茂憲紀とキスしてほしそうな顔してるなぁと勘づいてるし甘やかしてあげたいとも思ってるけどただでさえ立場が微妙な加茂くんの足を引っ張りたくないから見て見ぬ振りをする補助監督。
加茂くんがいろんな覚悟を決めて大人になるまでこの一線は守られ続ける。つまり加茂くんが覚悟を決めたときが大人な補助監督の最後。

***

・主人公
京都校の補助監督。もとから比較的良識的だけど加茂くんという子供の前では一層まともな大人であろうとしてる節がある。TOEIC900点ホルダー。
意外とキレやすいのでモブ補助監督から「加茂の次期当主に擦り寄ってんだって?女ならついでに楽しめたのに残念だなぁ。ああ、男でも構わないのか?」ってニヤニヤ絡まれたときはノータイムでぶん殴った。そしてそれを見てた加茂くんはなんの躊躇いもなく「正当防衛でした」って証言した。(あとで一人になって「もし私が女なら次期当主の座も、そもそも本家に迎えいれられることもなかっただろうに」って自嘲しつつそれでももし女ならって考えてしまって膝を抱えた)

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