「いーから金出せよぉ」
「ほら、持ってんだろ?このお坊ちゃんが」
校舎裏、僕は古典的な不良さんたちに恐喝を受けていた。
というか、何でこうなった。
この学校に転入してきてからしばらく、何故か周りの生徒は僕を『金持ちの帰国子女』やら『貴族の末裔』と噂する。
何故。確かに僕はイギリスからの帰国子女ではあるが、別に僕、お坊ちゃんでもないし。
それどころか父は毎日サラリーマンとして必死に働いてるし、母はパートに精を出している。
貴族どころか極々一般の家庭だ。
イギリスにいたのだって、ちょっとしたミスで自社の部長を怒らせた父が半ば強制的に会社のイギリス支部で学んで来いと会社を追い出されたせいで・・・
しかも『一人で外国なんてヤダぁぁぁあっ』と駄々をこねた父に仕方なく家族全員でイギリスに渡っただけだし。
イギリスと言うよくわかりもしなかった地で僕ら家族は必死に生きた。おかげ様でイギリス訛りはあるが英語は得意だけど。
「あの、本当に持ってないです。その・・・すみません」
「あ゛ぁ!?嘘吐いてんじゃねぇぞ!!!!」
「良いから金寄越せって言ってんだよぉ!!!!」
そんな怒鳴らなくても・・・
正直、日本の不良さん達よりもイギリスのチンピラさんたちの方が怖かった。
何が怖いって、流暢すぎる言葉で一気にまくし立ててくるから、何言ってんのか全然わからない。下手すると刃物とか銃器とか向けてくるし。
「聞いてんのかコラぁ!!!!!」
「金持ちだからって庶民見下してんじゃねぇぞ!!!!」
だから一般庶民ですって。
「貴族の末裔だか何だかしらねぇが、手前みたいなナヨナヨしたヤツ一発締めてやる!」
だから末裔じゃないですって。
「・・・はぁっ」
「ッ!!!!舐めてんのか手前ぇぇぇぇえええッ!!!!!」
ついつい口から零れてしまったため息に過剰反応した不良さんたちは僕を殴ろうと拳を振り上げてきた。
あぁ、これは仕方ない。そう思いながら次に来る痛みを待った。が・・・
「おい」
突然響いた声に、不良さんたちは「あ゛?なんだ――」と振り返った。
その瞬間、彼等のうちの一人の顔面に拳が埋まる。
ウゲェッ!!!とかいう声と共に倒れた不良さんと、それを見て青ざめる他の不良さんたち。
「ひッ!く、空条承太郎ッ!!!!」
くうじょう?
あぁ、そういえば同じクラスの女の子たちがキャアキャア言いながらその名を言っていた気がする。
確か彼等と同じく不良さんだ。
その空条君が何故だか僕の周囲にいた不良さんたちを一掃してくれた。
一人ぽかんとしていた僕は「ぇーっと」と言いながら頬を掻く。
僕を真っ直ぐとみている空条君は全くの無傷で、相当強いんだろうなぁと思った。
「有難う、かな・・・ぇーっと、初めまして空条君」
出来るだけ穏便に話を済ませたい僕はにこっと笑いながら彼に語りかけた。
「おい」
「は、はい」
「・・・行くぞ」
「え?ぁ、はい」
何故だかふいっと顔を逸らした空条君に腕を掴まれてそのまま歩く。
あぁ、そういえば空条君って人気者だよね。主に女の子に。
こういうとこ、もしも見られたら女の子たちに嫉妬されちゃうのかな。
そんなことを思いながら歩いてたら、空条君がチラッとこちらを見た。
「どうしたの?」
「・・・別に」
「あ」
僕は彼の目を見て気づく。
僕の声に反応した空条君は「何だ」と言う顔をする。
ついつい手を伸ばして彼の目元に触れ、僕はふっと笑う。
「綺麗な目だね」
「・・・っ」
褒めたつもりだったけど、空条君はお気に召さなかったのか、勢いよく顔を背けた。
何がともあれ、これは僕と空条君とのファーストコンタクトになり、後々彼とは仲の良い友人同士となることが出来た。
家にもお呼ばれしたことがある。聖子さん、可愛らしい人だった。
僕は結構彼の目が気に入っている。
綺麗で澄んでいて・・・彼の外面だけでなく内面の優しさも十分表現しているような気がする。
空条君とはよく話すようになったために、僕が貴族の末裔でもなければ金持ちでもないということは伝えられたし、空条君は軽く「それがどうした」と言ってくれた。
正直、僕よりも空条君の方がずーっと金持ちのお坊ちゃんだと思う。本人に行ったら無言でデコピンされるだろうけど。
空条君は誤解が解けたけど、周囲はまだ誤解してる。
それどころか最近では『得意の話術でJOJOを自分の戦力にした』とか『実はイギリスに強い仲間がいる』とかいう、今度は僕最強説まで上がってきて、不良さんたちに絡まれることはなくなった。代わりに「兄貴!」とか「舎弟にしてくだせぇ!」とかいう輩が出て来たから困ったもんだ。
「誤解されるって、怖いよねぇ」
ただいま僕は屋上で空条君と絶賛サボり中。
隣で寝そべっていた空条君は呆れたような顔で「よく言うぜ」と言った。
「それを上手く利用してんのは手前だろうが」
「だって、勝手に勘違いして勝手に僕の人物像作っちゃうんだ、皆。僕はその期待に応えてるだけ」
僕はあっけらかんとして言って笑う。
空条君は小さくため息を吐いた。
「まぁ・・・俺も最初は勘違いしたけどな」
「どんな風に?」
「・・・言わね」
ふいっと顔を背けてしまった彼に、僕はクスッと笑う。
「僕と承太郎君の仲なのにー」
「っ!?て、手前、突然呼び方変えんな」
「駄目?」
「・・・勝手にしろ」
耳が若干赤くなっていることに気付いた僕は「あははっ」と今度は声に出して笑ってしまった。
・・・デコピンが痛かった。
おまけ⇒