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『どーも、アンタに殺された男でーす』



最初はスタンド能力かと思い、メタリカを使用した。

しかし目の前の男は『無駄無駄ぁー、なんつって』とだけ言って笑った。



「・・・何者だ、お前は」

『だーかーらー、アンタに殺された男だってば』


宙に浮いている男はくるっと回って『んで、今は幽霊』と付け足す。


『あ!別にアンタのこと恨んでるわけじゃねぇから、そこんとこよろしく』

自称幽霊はにかっと明るく笑って言った。







男の外見の特徴から調べたところ、確かにその男は俺が殺した男だった。


名はナマエ。

とあるギャング組織の研究員の一人。一般家庭の次男として生まれ、学生時代から様々な研究に励み生まれた功績を買われてスカウトされたようだ。


本人は至って楽観的な性格で、何処か奇妙な性格をした研究員たちの間でも大分浮いた存在だったようだ。


そんな男本人に対する直接的な暗殺指示はなかった。ただ、研究員を一掃しろといわれて殺ったまで。

一掃された研究員の中に、この男は紛れていた。




『んー?おぉ、僕のこと調べてたのかぁ!ははっ!これ写真写り悪すぎ〜、実物の方がイケメンじゃね?』

「・・・・・・」



『完全無視とか傷つくわぁー、クールキャラなの?クールキャラなんですかー?』

隣で煩いソイツを無視する。


どうやらこの男、幽霊を自称する通り物質を何でもすり抜けるようだ。

しかも・・・俺以外には見えないらしい。



男が現れた後に俺の元へやってきたプロシュートが、この男の存在に全く気が付かなかったのだ。目の前にいたというのに。




俺にしか見えない、その幽霊。

『別にアンタの仕事の邪魔とかしないからさー、無視とか止めてくれよぉー、僕だって傷つく心ぐらいは残ってるんだぜ?』

「・・・存在するだけで邪魔だ」


『うぉっと、存在そのものを否定されるとは!けど残念、僕だって成仏する方法なんざわからないさ』



へらへら笑う男に殺意が湧くが、生憎コイツは既に死んでいる。

生きている相手だったら対処も楽だったのに・・・





『そう落ち込むなよ』

「・・・何も言ってないが」


『雰囲気が落ち込んでた。僕、そういうのには敏感なんだぞ』


表情にも全く出していないというのに・・・

随分と俺を理解したような口を利くその男に、俺は大きなため息を吐いた。






その男が共にある生活は、意外にも苦ではなかった。

最初は鬱陶しくて仕方がなかったが、戦闘中は『おーい、此処に隠れてる奴がいるぞー』と言って何かと支援してきたり、幽霊だからと簡単に敵の情報を持って来たり・・・


苦どころか、大分コイツは役に立っていた。





『アンタさぁー、少しは休んだ方が良いぜ?僕から見てもアンタは働きすぎだ』

「・・・・・・」


『おーっと、無視しようなんて思わない方が良いぞ?休まないなら休まないといけない状況を作るまでだ!』



そう言って書類を見ていた俺の目の前に滑り込み、書類が見えないように邪魔してくるソイツにイラッとする。


休んでいないのは確かだったし、実際身体は不調だった。

だがそれを表面には出していない。何故コイツは、俺のことがこんなにもわかるのだろうか。


結局はソイツの言うとおりに休むこととなった俺は、翌日の仕事を思った以上に進めることが出来た。おそらくだが、休んでいなかったらこうも上手くいかなかっただろう。




はっきり言ってしまえば・・・

俺はコイツとの生活に、大分慣れ親しんでしまっていた。


何時の間にかコイツにだけ自分の心の内を話すことも多くなっていた。

普段は煩い癖に、俺の話を聞くときだけは『そうか・・・あぁ、そうだな・・・』と静かに聞き入るコイツを、気に入ってしまっていた。



だから・・・







「お前は・・・俺を取り殺してしまいたいのかと思っていた」


血まみれで地面に横たわる俺に、ナマエがクスッと笑った。

つい先ほどまで、ボスに深く関わっているであろう少年と戦闘していた。



そう、あの瞬間俺は――






『言っただろう。僕は、アンタを恨んでるわけじゃないって』



殺されそうになった瞬間、コイツに庇われた。

俺にしか見えないコイツ、ナマエに。


霊体は全てをすり抜けるはずなのに、俺に覆いかぶさったナマエの身体が俺に降り注ぐスタンドの銃弾の雨を防いだ。

敵が俺の死を確認せずに去った後、ナマエは先の台詞を口にした。





「じゃぁ・・・何故俺に取り憑いたんだ」

『殺される一瞬だけ、アンタを見たんだ。一瞬だけだったのに・・・僕、アンタを好きになっちゃったんだ』


だから、君には生きてて欲しい。



そう言ってほほ笑んだナマエに、俺は唇を噛んだ。





『ごめんよ。本当はアンタを幸せにしてあげたかったんだ。だが、僕が救えるのはたったの一人きりだった・・・』

他のチームのメンバーは死んだ。もう俺しか残ってない。




『生きろよ・・・ギャングなんて危ないことしてるし、長生きしろとか馬鹿なこと言わねぇから、全力で生きろよ』


此方が触れようとしても触れられることの無かった手が、今俺の頬をするりと撫でる。

そこで俺はようやく気付いた。




「おい、お前・・・」

・・・ナマエの身体が薄れている。


驚く俺にナマエは小さく困ったように笑った。





『僕はさ、幽霊だから・・・アンタにだけでも姿を見てもらうには力が必要だった』

「・・・・・・」


『けど今・・・人一人の運命を大きく変えるだけの行動を取ったから、その力をほとんど使いきっちまった』


ははっと笑うナマエ。




『大丈夫。しばらくすれば一般の観光客がアンタを発見して、病院に連れてってくれる。割と傷は浅いし、アンタにはメタリカがあるだろう?十分生き残れる』

全てを知ったような口調で、ナマエはやけに穏やかな声で言った。


ふざけるな。お前だけが満足して、俺の気も知らないで・・・





『ごめんな。だから、そんな辛そうにするなよ』

「・・・相変わらず、表に出してないのによくわかるな」


『わかるさ。好きな人のことだ』

こつんっと額にナマエの額が当たる。





『・・・あのさ、我が儘言って良い?』

「何だ・・・」


きっとこれが最後なのだろう。

直感的に、もうナマエは俺の前に姿を現さないことがわかる。





『もし来世で出会えたら・・・出来れば僕に、チャンスをくれよ』



「チャンス?」

『好きになって貰えるように努力するからさ・・・完全無視だけは止めてくれよ?』


冗談っぽく言ってはいるが、その眼は本気だった。

あぁそうか・・・来世でまた会えるのか。


妙な安心感が俺の中で生まれるのを感じる。

それすらも察したのか、ナマエも穏やかに微笑んだ。


小さく小さく、触れるだけの拙いキス。






『じゃぁな・・・リゾット』



愛してるぜ。




唇が離れると同時に紡がれたその言葉を最後に、ナマエは消えた。




残された俺は・・・

両目から流れるソレを隠すように腕で顔を覆った。







彼の愛した幽霊





「リゾット、これが次の任務の資料です」
「・・・あぁ」

「働き過ぎじゃないですか?この任務が終ったら、今度こそ休暇を取ってください」
「・・・まるでアイツのようなことを言うんだな」
「え?」

「あぁ、いや・・・俺の恩人が、よく俺を休ませたがっていたのを思い出しただけだ。何度か強行で休ませられたがな」
「へぇ、それは興味深いですね。仕事熱心な貴方を休ませる程の人がいたなんて。今度聞かせてください」

「・・・ふむ。ボスの言う事だ・・・従おう」

ジョルノは意外にも穏やかな表情を浮かべるリゾットにほんの少し目を見開き、それからにっこりと穏やかに笑った。




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