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自らのスタンドの能力で老人へと化けていた。

自分を老人だと思って油断したターゲットを殺した。


すぐに元の姿に戻っても良かったが、人も多かったために今日の所はこのままで帰ることにしたのだが・・・





「・・・・・・」


目の前に聳える段数の多い階段を見ながら、俺は頭痛を感じた。



別に本当の老人なわけではないが、この姿でこの段数はキツいものがあるだろう。

仕方ない、何処か物陰に行って元の姿に戻ろう――







「おじいさん、大丈夫ですか?」


「!・・・ぅ、うむ」

突然声を掛けられて少し驚いたが、相手が何も知らない一般人だということを把握するやいなや、すぐに返事をした。





「上へ行くんですか?」

「ぅむ・・・」


「ご老体にこの階段はキツいでしょう。手伝います」



そういって俺に向かって手を差し伸べた男は・・・





まるで太陽に愛されたような、そんな温かな笑みを持ったヤツだった。






一瞬で、あぁ自分とは生きる世界が違うのだと理解したが・・・


それでも俺は、ついその男に惹かれてしまった。






「足腰大丈夫ですか?何でしたらおぶりますよ」

にっこりとほほ笑みながら俺に背を向けてしゃがみ込んだ男。


その背中があまりに安心できるもので、俺は「た、頼もうかのぉ」と言いながらその背に身体を預けた。


ひょいっと軽々俺を背負うと、男はそのまま階段を上りだした。







「親切な方、お名前を聞いても良いかのぉ」

「ナマエです」




優しい声。

温かな背中。


ほんと、俺とは大違いだなと思いつつ、俺は俺の中にほんのりと生まれた“安心感”というヤツに身をゆだねた。






「この辺りじゃ見ない顔じゃ。旅行者かね?」

「いえ。つい最近こっちに越してきたんです」


「ほぉ。仕事は?」


「しがない漁師ですよ。祖父も父も漁師で、正直自分は体力にしか自信がなかったんで、後を継ぐことにしたんです」



明るい声で言う男。


太陽に愛されているこの男なら、きっと海に出てもその加護を受けるのだろうと、何故だか漠然とそう思った。


この階段は長く、老人でなくとも上るのは一苦労のはず。しかし男が自分で言うとおり体力には自信があったらしく、まだまだ余裕そうに歩いている。




「おじいさんはこの辺りの人ですか?」

「あぁ、そうじゃ」


「じゃぁきっとまた会えますね。今度、俺が釣った魚、是非食べてください」


温かくて優しい。


男は俺が本当は老人ではなく自分と同じぐらいの年齢だとは夢にも思わないだろう。

そう考えると、何だか唐突に自分のことを理解させたくなってくる。





「おじいさん。俺はこの街で精一杯生きていくと決めたんです。祖父や父がそうしてきたように、一生懸命」


「あぁ」



「でもちょっと不安何ですよ。ははっ、図体ばかりデカい男が言うことじゃないかもしれませんけど」

「良いじゃねぇか、不安でも。不安なのを恥じる必要なんてどこにもねぇよ」


「ははっ、何かおじいさんって男らしいなぁー、見習わなくちゃ」




楽しげに笑っている男は気付いていない。

俺が老人から本来の俺に戻っていることに。


この階段を上っているのは男と俺ぐらいなもので、周囲には人気はなかったから。


ちょっとした悪戯心から、笑いながら男の頬を撫でてみた。





「あれ・・・おじいさんの手、何かすべすべ・・・」


やっとおかしなことに気付いたのか、男はほんの少しこちらを横目で見た。






「わっ!」

驚いたような声を上げるが、俺をいきなり落としたりするようなことはしなかった。


残り数段だった階段を一気に登ると、俺をゆっくり降ろして「お、俺は何か変な術にでもハマってんのか!?」と口にした。







「運んでくれて有難うな、色男」


悪戯っぽく、男の頬から顎にかけて指をつぅっと滑らせる。




「お、おじいさん・・・じゃ、ないか・・・あ、アンタの名前は?」


老人相手とは違う、何処か砕けた喋り方に俺は人知れず満足する。




「プロシュートだ、ナマエ」


多少は怖がるかと思ったが、男は先ほどのことを手品か何かと解釈したのか「プロシュートか」と言いながら再び太陽の様な温かさを持つ笑みを浮かべた。





「ちょっと驚いたけど、初めて知り合った相手が同い年ぐらいの相手だと何だか嬉しいかも。よろしく、プロシュート」


何の疑いもなく差し出された手を、俺は吸い寄せられるように握った。



「あぁ、よろしく」



暗殺者が何を言っているのだか。

俺は俺自身に呆れながら「じゃぁな」とナマエの手を離して背を向けた。





「あ、プロシュート」

ぐいっと引っ張られた。


普段の俺なら引っ張られる前にどうにかするのだが、どうにもナマエの前では俺でさえ油断してしまうらしい。

・・・これじゃ、ペッシに顔向けできねぇな。


いや、それよりも今は・・・





頬に感じた感触に俺は唖然とした。





「さっき俺を驚かせた仕返し」


にっと笑ったナマエの唇の感触が残る頬を抑えながら・・・





「・・・とんだ野郎と知り合いになっちまったな」

ばいばいと手を振るナマエに軽く手を振り返しながら俺は小さく呟いた。





・・・口元に自然と浮かんじまった笑みをさっさと消して、アジトにでも帰ろう。





太陽の男




次に出会ったとき、太陽の笑みを浮かべたナマエの腕には、美味そうなデカイ魚が抱えられていた。
(プロシュート!大物が取れたからお前にやるよ!)




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