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「DIO様?」

「・・・誰だ、お前」



ジョースター邸への帰り道、ディオは突如として自分の目の前に現れた男に対し、ジリッと後ずさった。

目の前の男はきょとんとした様子でディオを見た後、きょろきょろと周囲を見ながら「此処は一体・・・」と声を上げた。




「おい、無視するな。お前は誰だと聞いている」


「も、申し訳ありませんDIO様。しかし何故そのような御姿に・・・まるで子供・・・ハッ!!!まさかアサッシーが!?あぁ、御労しや・・・安心してくださいませ、DIO様、このナマエがすぐに貴方様を元に戻して――」



「待て。何の話だかさっぱりだ。それに俺は確かにディオだが、DIOではない」


二人の間に妙な沈黙が生まれる。




ディオにしてみれば、この妙な男からさっさと解放されて、早々にジョースター邸へと戻りたかった。






「ハッ・・・!そういえば今はまだ夕方!DIO様は何故お外に!?」


おろおろとしているナマエはディオをジッと見つめ、何故かほっとして「何故だかわからないが、平気なようですね」と言葉を漏らした。





「もう一度聞くぞ。お前は誰だ」


不可解な目の前の現象にイライラした様子のディオはナマエを睨みつけながら尋ねた。

男は「貴方の部下のナマエです。お忘れですか?」と言う。





生憎ディオは身に覚えもない。


しかし、見たところ男は長身で腕っぷしもそこそこ強そうで、しかも勘違いかもしれないとはいえ自分を崇拝していることに気付いたディオは、それを上手く利用できないかと考えた。






「ナマエ。お前のことを聞かせて欲しい」

「ハッ、DIO様」


さっと跪き、男は語った。




自分がいかにしてDIOと出会い、いかに自分がDIOを慕っているかを。

その話の過程で自分が吸血鬼になるのだと知ったディオだったが、大して驚かなかった。


何せ、ディオは近いうちにあの石仮面を使用しようとしていたのだから。


スタンドという聞きなれない単語もあったが、それは未来の特殊能力なのだろうということで考えをまとめた。





ナマエもナマエで、話しているうちにDIO・・・否、ディオの様子がおかしいことに気付いたのだろう。





「DIO様、私には状況がわかりかねますが、どうやら私は何者かのスタンド攻撃に遭ってしまったのやもしれません。ということは此処は・・・」

「あぁ。お前にしてみれば大分過去になるな」


「・・・あぁッ、DIO様っ、では貴方は過去のDIO様なのですね・・・」


跪いたままの状態で、ナマエは悩ましげな顔をした。






「ナマエ。お前の主人であるDIOの過去であるこの俺に忠誠を誓えるか?」


ディオは確信を持ちながら問いかけた。

ナマエはほんの少し驚いた顔をして、それから・・・









「もちろんでございます、ディオ様」








にっこりとほほ笑み、ディオの手を取ってその手の甲に口付けた。



それはさながら姫を守る騎士のようで・・・

ディオはすぐにその手を振り払ったが、文句は言わなかった。










ディオはナマエを屋敷に連れ帰り、ジョースター卿には「職を失った可哀相な男」として紹介した。


人の良いジョースター卿はナマエを屋敷の使用人として職を与え、ナマエは率先してディオの世話を焼いた。

その姿を働き者だと皆が認めた。





何時の間にかディオ専用の使用人となっていたナマエは、それを誇りに思っていた。


しかし運命は動き・・・









「おれは人間をやめるぞ!ジョジョ―――ッ!!!」









“その時”が来たとき、ナマエはそっと目を閉じた。


ディオは吸血鬼となり、ジョナサンは波紋使いとなり・・・

ナマエは――





「我が敬愛するディオ様。いずれはDIO様となり、どうか頂点へ君臨してくださいませ」


ジョナサンとディオの首を優しい手つきで“交換”し、その身体をそっと棺へ寝かせた。

最後に、自らの美しい主人の頬を撫でようと伸ばされた手は・・・





ガリッ


「!」




ふいに目を覚ましたディオによって噛まれた。


その傷口から侵入してくる熱い何か。





「・・・おま、ぇ・・・だけ、そう易々と死ねる・・・と、思うなよ」

「・・・光栄です、ディオ様」





途切れ途切れに言って、再び気を失ったディオの頭をするりと撫でてから、ナマエは棺をそっと閉じて・・・






棺を海の底へと突き落とした。











あれからどれぐらいたったのか。


ディオはDIOとなっていた。

しかし、DIOの隣にナマエはいない。



まさかDIOの知らぬうちにすでに灰になっているのか、それともDIOの存在など忘れて一人悠々と生きているのか・・・

どちらにしても、DIOはナマエがいないことが気に食わなかった。



だから自分で探すことにしたのだ。




遠い昔、ナマエ自身がDIOと出会ったと言う場所へと赴いた。









「・・・ゴホッ、げほっ・・・あぁ、チクショー・・・何でだよ、くそッ」


暗い裏路地に座り込んで悔しそうな声を出している男を見つけた。

傷だらけで、何処か悲しんでいるような・・・






「――どうしたんだ?」


DIOはまるで自然な様子でナマエの前に立ち、言うのだ。



「苦しいなら・・・このDIOのところに来ないか?」

そっと差し出した手を、ナマエは戸惑ったように見つめ・・・


DIOの中にある絶対的な何かを見だしたのか、ナマエは恐る恐るだがしっかりとその手を取った。





過去で出会ったナマエは言っていた。


自分はその時信じていた仲間から裏切られ、酷く人間不信だったのだと。



そんな時に現れたDIOのことも最初は信じられなかったが、自分の心を保ってくれた相手として感謝し、主人としても尊敬するようになったと。













「DIO様、では行ってまいります」


ナマエが館にいるようになってからしばらくのことだ。


スタンド使いの情報を掴み、何とか勧誘できないかということで、ナマエがその任に就くことになった。

DIOの記憶するナマエと同じような笑みを浮かべたナマエはその日のうちに館を出ていき――そのまま帰ってこなくなった。






敵のスタンド使いによって、忽然と姿を消してしまったそうだと、後にDIOに報告された。


ギリッと奥歯を噛みしめるDIOは、内心、実はもうナマエは自分に嫌気がさして会いたくなくなったのでは?と思った。






あの日、最後に見たのは優しいナマエの笑顔だった。


自分の全てを受け入れ、自分の全てに力を貸すと言ったナマエは、自分を棺に入れながら穏やかに笑っていた。




その笑顔は・・・正直な話、嫌いではなかったのかもしれない。




「今頃になってそれに気付くとはな」

DIOはフンッと鼻で嗤いながらベッドに腰掛け、ワインを――








キィッ


背後の窓が開く。

DIOは驚いた様子もなく、ただほんの少しだけワイングラスを持つ手を震わせた。








「・・・遅かったではないか、ナマエ」

静かに言えば、窓を開いた張本人はぴくりと反応した。




「・・・ディオ様」


「今はDIOだ」

「はい」



月明かりで照らされたのは、DIOの記憶の中と一寸の違うもないナマエの姿だった。


ナマエはゆっくりとDIOに近づいていき、その足元跪いた。









「DIO様・・・長い月日の中、再び会えることが出来、光栄です」


ふわりと、此処数十年で更にこの男は穏やかになったのか、その笑みは柔らかかった。




DIOの「今まで何処に行っていた」という問いかけに対しナマエは言う。





「DIO様の配下になるのを拒み、私を過去へと飛ばしたスタンド使いを殺しに。配下にならないなら、DIO様の邪魔になったはずですから。あのスタンド使いが生まれるのを待ち、私自身が飛ばされるのを待っていたら、何時の間にやらこんなに年月が経っていました」


何処までもDIOに忠実なのだろう。

DIOの脅威になるようなスタンド使いをDIOのために消していた。




「長かった・・・貴方様が目覚めるまでの年月は」

DIOがワインのグラスを置くと、ナマエはその手を取って手の甲に口付けた。


懐かしいその感覚に、DIOは目を細める。





「時を渡ったナマエよ。このDIOに忠誠を誓えるか?」


「遠い時の彼方より、何一つ変わらない忠誠を貴方に」




にっこりとほほ笑んだナマエに、DIOは満足そうに笑った。





時を駆け抜けた男







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