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18でいとこの仇を取って以来、俺は裏の世界で生きてきた。


スタンドの能力に目覚めてからは暗殺の腕が上がり・・・





「ナマエさん、コイツです」




ある日突然、複数の男たちによって俺は“ソコ”に連れて来られた。


何人かはメタリカで殺したが、相手に特殊なタイプのスタンド使いが何人かいて、不覚ながら捕まってしまった。



ソコに居たのは白のワイシャツに細身の黒ズボンというラフな格好をした男だった。


俺を捕まえた奴等の口調からして、目の前のその男が力を持つ人物だというのはわかる。






「ごくろーさん。じゃ、お前等は外で待機なぁ・・・二人きりで話そうじゃないか。なぁ?――リゾット君」

「・・・・・・」




こちらの情報は全て手に入れているのだろう。

俺が無言のまま睨めば、その男はにこっと笑って見せた。





「そう警戒しなくても良いさ。私はとある組織内にあるチームのリーダーをやっていてねぇ。君のことはよく噂で聞いていたんだ」

こぽこぽっと紅茶を用意する男は「あ、砂糖とかいる?」と言いながら俺にカップを渡してくる。




「何か入ってるかもしれないって思うか?ま、それもそうか」


何時までもカップを受け取らない俺に愉快そうに笑った男はそのカップを自分の口に近づけ、一口飲んだ。




「ほら、安全だ」

「・・・・・・」


「ふむ。用心に越したことはない、か」



それでも俺が受け取らなかった紅茶のカップは、男が床に落としてパリンッとあっけなく割れた。






「利口だなぁ、リゾット・ネエロ。気に入った」


そこのソファに座ると良い、と言われるがままに、俺はソファに腰かける。

正面のソファに座った男は、メタリカの射程距離にしっかり入っている。


けれどまだ早い・・・何故俺を此処に連れてきたのかを聞き出してからだ・・・







「君に提案があるんだ、リゾット君」

「・・・提案?」



「君は強く的確な暗殺者だ。しかし、単独でこの裏世界で生きていくには辛いものがあるだろう。そこでだ・・・」


男はにっこり笑った。









「我がパッショーネの暗殺チームに入らないかい、リゾット君」









暗殺という物騒な単語を言っているにも関わらず、まるで太陽のような明るい笑みを浮かべて手を差し出して来たその男の名は――ナマエと言った。








「ナマエさん」

「おぉー!久しぶりだなぁ、リゾット君」


客はあまりいないが何処か心落ち着くような優しい雰囲気のあるカフェの中。

俺を見た瞬間、あの頃とまったく変わらない太陽の様な笑顔を浮かべたその人。






「・・・今日はどうした――っと、何だ、飯食いに来たのか」


俺の後ろにいた現暗殺チームのメンバーを見て、ナマエさんは苦笑を浮かべた。





「悪かったなぁ、リゾット君。俺の代で改善してやれなくて」


ナマエさんが言うのは、暗殺チームの待遇のことだ。



俺がまだ暗殺チームに入りたての時も、ナマエさんは暗殺チームの待遇について考えていた。

しかし結局、ナマエさんは改善することは叶わず、そのまま俺に次の代のリーダーの役を託した。


だが・・・




「ナマエさんのせいじゃないです」

ナマエさんは俺の言葉に苦笑を浮かべつつも「ありがと」と言った。




「よし!今日は目一杯喰わせてやるからな」

「有難うございます」


くるっとこちらに背を向けて奥へと引っ込んでいくナマエさん。







「おい、リーダー。アイツ誰だ」

ホルマジオの問いかけ。



「・・・先代の暗殺チームのリーダーだ」

「はぁ!?あんなヘラヘラしたヤツが!?」



「・・・口を慎め。あれでも、あの人は凄い人だ」

「へぇ・・・リゾットがそこまで言う相手なら、相当なんだろうな。スタンド使いか?」



感心したように言うプロシュートに俺は「いや。スタンドは使えない」と首を振った。




「はぁ?だったら猶更わかんねぇよ・・・」

「ただ、あの人は相手に自分の存在を悟られる前に殺す・・・」




「こーら、リゾット君。一般客もくるこの店で物騒な話をするんじゃぁないぞ?」


何時の間にやら大皿を手に戻ってきていたナマエさん。





「・・・すみません、ナマエさん」

「まぁ俺のことが気になるのもしかたねぇかもしれねぇけどなぁー」


コトッと小さな音を立てて置かれたのは、まずピザにパスタにチキン・・・




「まだまだある。たんと食べろ」


「わぁ!兄貴、こんなご馳走久しぶりだねぇ!」

「おいこら、ペッシ!はしゃいでんじゃねぇ!」


プロシュートとペッシのやり取りを見てナマエさんは「はははっ」と笑った。




「なぁ、リゾット君。お前のチームはなかなか愉快な面子が揃ってるじゃないか。こりゃぁ、歴代の暗殺チームの中でも一番かもなぁ」




「・・・有難うございます」

「ま!歴代っつっても、俺とお前の2代だけどなぁ!」


あっはっはっと笑うナマエさんだが、





「・・・スベった?」

「・・・・・・」


周りがあまりにしんっとしているため、ナマエさんはごほんっ!と咳払いをして「さ、さぁ食え」と言った。




OKサインが出ると実は大分空腹だったチームの面々はバッと食べ始める。

正直俺自身も空腹だったため、目の前のピザを手に取った。


ナマエさんはその食べっぷりに「ぉー、なかなか」と言いながら次々料理を持ってくる。





「俺は元々料理が得意でなぁー。リーダーを現役だった頃はよくチームの奴等に作ってやったもんだ」

「アンタ・・・ぁー、ナマエさん」



ナマエさんをアンタ呼ばわりするイルーゾォをギロッと睨むと、イルーゾォは冷や汗を掻きながら訂正した。





「ん?何だ?」

「何でリーダーを降りたんだ?幹部にでもなったのか?」


確かにギャングの中には表の仕事を持っている人間も多いが、この人は・・・





「俺はチームを出たんだ。パッショーネのやり方がイマイチ自分に合わなくなってきてなぁ」

「はぁっ!?そう簡単に抜けれるわけ・・・」




ナマエさんは無言で笑った。




「俺、結構慕われてるから、皆手ぇ貸してくれるんだ」

ぽんっと俺の肩に手を置くナマエさん。



「リゾット君は特に俺が信頼してる部下だったし、俺が暗殺チームを降りる時もリゾット君はちゃんと記憶してる。そうだろう?リゾット君」

「・・・はい」




あの日のことはあまりに衝撃的過ぎて良く覚えている。








――・・・






「・・・あ、俺今日暗殺チーム抜けるから」




「は・・・?」

「次のチームリーダーはリゾット君、君だ。是非頑張ってくれ」


「ま、待ってください、ナマエさん。何を突然・・・」


まるで何の変哲もない世間話のようなノリでそう言われたが、事は重大だ。





「結構この組織に貢献してきたつもりだがなぁー・・・パッショーネのやり方はどうにも合わないらしい」

「ナマエさん・・・けれどそれじゃ、裏切り者として処刑されるんじゃ・・・」



「んー、そうか、処刑かぁ。それは困るなぁ、何せ俺はリゾット君たちみたいにスタンドは使えないし」

そこでナマエさんは「あ」と言った。





「不可抗力でリーダーを続行できなくなったということにすれば良いか」


「?」





「リゾット君。君のメタリカで俺の足をずたずたにしてくれ」


笑顔のままとんでもないことを言うナマエさん。



俺のスタンドは見えないものの、身体からカミソリや針を大量に出して死んだ人間の光景なら見たことがある癖に、それでもなお俺にやれというのか。




「!?」

「あ、大丈夫大丈夫。知り合いに良い医者がいるんだ。ソイツに治してもらう」



「そんなこと・・・」

「出来ない?したくない?・・・んー、じゃぁ約束しよう、リゾット君。俺は組織を出て、カフェを構えよう。俺の所には、たぶん俺を信頼してくれる奴等が集まってくれるだろう。もしもリゾット君もこのパッショーネが嫌になったら・・・何時でもおいで。俺が受け入れ先になってやろう」


あの時みたいに、手を差し伸べてくれるのだろうか。

あの太陽の様な笑みを浮かべて・・・









「――・・・で、そのままメタリカでナマエさんの足をズタズタにした」



「俺はそのまま病院送り。あの医者は完璧でなぁー、まったくもって完璧に治してくれたさ。でも、ちょっとした細工で俺は“再起不能”ってヤツにしてもらった」

ナマエさんはリーダーを辞める理由を作りだし、見事俺を次のリーダーに据えた。



「んー、けどそれだけじゃパッショーネを抜け出せないでしょ」


メローネの言葉にナマエさんは「これはある意味人任せ」と笑う。




「パッショーネの情報を管理する機関でも俺の信頼できる奴が何人かいて、ソイツ等も口裏を合わせてくれた。幹部の中にも一人か二人いるんだ。組織何てそんなもんさ、情報源と幹部を味方に付けりゃぁ、大体ボスは騙せる。ボス自身が全部自分で情報収集するわけじゃないからな」


にっと笑ったナマエさんを店の中にいた別の客が呼び、ナマエさんは「はいはーい、今行く」と俺たちの傍から離れて行った。







「・・・何だか、突拍子もない人だな、リゾット」

「何か凄い人だってのはわかったな」



「けど本当に平気なのか?実は全部バレてる、なんてことは・・・」


「あぁ、バレてるかもしれない」

「はぁ!?じゃぁ俺達が此処にいるのはヤバいだろ。裏切り者と共犯扱いにされるんじゃ・・・」


席を立とうとするギアッチョを「落ち着け」と止める。







「・・・そのことで、お前たちに話したいことがあって、今日は此処に連れてきた」

「ただ飯食わしてもらいに来たわけじゃねぇのか?」


「それも含まれるが、こっちの方が重要だ」



俺はパスタを食べていた手を止め、フォークをそっと置いた。









「俺はチームを抜けようと思っている」




「!」

全員が大きく目を見開く。






「おいおいおい、まさか此処に引き取ってもらうとか言うんじゃないだろうな?リゾットがどんなにアッチを信頼してたってなぁ、あの人はもはや何の力もないカフェの店長だろう!?」


「・・・・・・」




俺は無言のままプロシュートを見る。

プロシュートは「何だよ・・・」と言おうとして、言葉を止めた。





「・・・違うのか?」

「ナマエさんは――」





チリーンッ


俺の言葉を遮る様に、カフェの扉が開くときのベルの音がした。





「いらっしゃーい」


ナマエさんはそういって扉の方を見るが、すぐに「あらら」と言った。







「死ね、裏切り者が」


ナマエさんに向けてスタンドを発動させたのは、おそらくパッショーネの奴だ。

瞬間、俺はメタリカを出そうとしたが――







「お客さん、俺は何の事だかさっぱりだ。ほら、俺は抵抗するつもりは何一つない。さっ、何か食べます?パエリアなんかもおすすめですよ」

ナマエさんは笑顔のままで相手に近づいていく。





「問答無用だ」

「・・・座ってください」


「だから――」







「『座れ』と言っているんだ」






ゾワリッとする感覚は、おそらくこの場にいた全員が感じ取ったことだろう。




「さぁ・・・――座れ」

ナマエさんを殺そうとした敵はその感覚をもろに感じてしまったのか、その場にへたっと座り込んだ。


「おやおや・・・そんなところに座り込んだらいけない。椅子に座ろう」



ナマエさんはテーブルを指差す。


しかし相手は動けない。

まるで蛇に睨まれた蛙のように、指一本動かすことも出来ない。






「可哀相に、そんなに怯えて。何も怖がることはないというのに」

ナマエさんが優しげな声で言って、相手をじっと見つめた。



「どうすれば君は怖がらなくなるかな?あぁそうだ、君・・・――俺と仲良くならないか?」


にっこりとした、それこそ太陽のような笑みを浮かべたナマエさんは、そっと相手に手を差し伸べていた。




まるで吸い寄せられるようにその手を震える手で取った相手に、ナマエさんは優しく微笑む。






「良い子だ」

にっこりと笑ったナマエさんに、相手がほっとした様子が見えた。


ナマエさんはくるっとこちらを見て「ごめんごめん、騒がせた」と近づいてくる。







「・・・良いんですか、アレ」

椅子に座って俯いているヤツをちらっと見て言う。


ナマエさんは「大丈夫」と笑った。






「元々パッショーネに若干の疑問を抱いている目をしていたヤツは“取り込む”のは簡単だからなぁ」


「だからと言って、自分を殺そうとしたヤツまで・・・」

「俺は受け入れられるものは全部受け入れたいんだ」


にっこりと笑ったナマエさんに、俺は「そうですか・・・」と言って、もう一度チームの奴等の方を見た。










「少し前から“プラーネタ”という名の組織を耳にすることがあるはずだ」


「ん?あぁ、そういえば聞いたことがあるな。何人もの手練ればかりが集まった大きな組織だ。パッショーネとはまったく交流がないが、抗争にでもなればあちらが圧倒的に有利って・・・おいおい、まさか・・・」



目を見開く奴等に俺は「そのまさか」だ、と言う。






「紹介しよう。プラーネタのボス、ナマエさんだ」

「こーら。勝手に紹介するな」


ぺしっと頭を軽く叩かれるが、本気で怒ってはいないのだろう。




「リゾット君から話は聞いている。散々な扱いを受けてるそうじゃないか・・・」

ナマエさんはことっとアップルパイの載った皿を置いて「まぁ、お食べ」と言った。



「まぁ、俺が今もこうやって生きているのは、簡単に言ってしまえば他人任せだ。最初は俺をボスにしたいという奴等で結成した小さな組織だったんだが、ここ数年で一気にデカくなった」


「ナマエさんの話術の能力の高さに魅かれる奴は多い。パッショーネの幹部の中にも、ナマエさんに魅かれて情報を勝手に流してくれる奴もいるほどだ」




「だから俺は殺される心配はほとんどない。たまにさっきみたいな奴が来ても・・・俺が“取り込む”か此処にいる“仲間”が殺すかするし」


パチンッと指を慣らせば、周囲にいた客全員が食事を取る手を止めた。





そう・・・此処にいるのは、全てナマエさんの組織の護衛。


たとえさっきの相手がナマエさんの手を取らずにナマエさんを殺そうとしても、そんなの関係ない。一瞬にして対処できる。






「リゾット君の大切なチームだ。無理に俺の組織に入れとは言わない。だが、リゾット君はすでに俺のところにくることを決意しているらしい・・・どうだ?君達――俺と仲良くならないか?」

にっこりとした笑み。


太陽の様な、優しい・・・絶対的な笑みの前では、いかなるものに対する不安も拭い去られる。





この人となら、という感覚が胸を埋めるのだ。






「おい、リゾット。最初から俺らを誘うつもりだったのか」

じっとこちらを見てくる。


それはそうだ。俺は自分の一存で勝手にコイツ等を連れてきたのだから。



俺は静かに「・・・すまない」と謝った。






「馬鹿、そういう意味じゃねぇよ・・・――何でもっと早く誘わなかったんだって言ってんだ」


俺は少し目を瞬かす。





「ったくよぉ、もう少し早くこっちに入っとけば、あんな貧そうな暮らししなくても良かったのによぉ」

「じゃぁこれからはまともな飯が食えるってことか」

「給料ってどれぐらいだぁ?まぁ、パッショーネよりは良いだろうけど」


口々に言う奴等に、俺はぽかんとしていた。





「あっはっはっ、やっぱり君のチームは愉快だなぁ、リゾット君」


肩を叩かれ、俺は「はぃ」と頷いた。







「ではでは、君達を正式に俺の組織、プラーネタの一員として認めよう。そうと決まればお祝いだ!酒も肉もどんどん持って来よう」


ナマエさんの言葉に、周りにいた護衛たちもワイワイと騒ぎ出した。









「リゾット君」

「はい、ナマエさん」



「ようこそ。いや・・・おかえりか」


すっと差し出される手。






「・・・はい」


俺はやっと・・・ナマエさんの手の中に戻ることが出来た。




穏やかなる最強







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