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空条承太郎・・・

その名を呟くたびに、僕の心はときめいた。


どちらかと言えば虚弱で、腕っぷしは全然強くなくて、外に出るよりも室内で読書をする方を好む僕は、僕とはまったく違う彼に恋してた。



お菓子を作るのが得意。裁縫はもっと得意。

長い前髪と華奢な身体のせいで、周囲を僕を“女に成り損なった男”と馬鹿にする。



特にクラスの女共からは『女々しいとか』『キモいオタク野郎』とか言われる始末。


そんな僕は格好の虐め対象で、よく校舎裏に連れて行かれては殴る蹴るをされてて・・・




そんな時だったんだ。同じクラスの彼が・・・空条君が助けてくれたんだ。


気まぐれだったかもしれないし、ただ単に自分の通行の妨げだった不良が邪魔だったからかもしれないけど・・・





空条君は僕を暴行していた不良たちを全員殴り倒し、そのまま去って行った。


一方的な攻撃だったけど・・・

そのしなやかな手足を繰り出す彼は、何処までも美しく・・・


僕はそう。あの時、僕の心は全て空条君に持って行かれたと言っても過言ではない。





元々周囲の言葉も行為も気にしたことはなかった。

身体の痛みも、既に無視できるまでになっていた。



だって周囲などどうでも良かったから。



虚弱なこの身体と心は、酷く醒めきっていたのに。なのに・・・


空条君のことは全てが気になって気になって気になって・・・!!!!






席替えで彼の隣に慣れた時は、本当に嬉しかったんだ。


女子がどんなに席を交換してほしいと言って来ても僕は絶対に首を縦には振らなかった。




まぁそもそも彼はほとんど教室にはいないのだけれど。


けど今日は違う。





「・・・・・・」


今、僕の隣には彼が座っている。




普段は授業どころか学校だってサボっている彼だけど、時折こうやって授業を受けにくる。

それは本当に珍しいことだけど、それが嬉しくて嬉しくて・・・



教科書をぱらぱらめくっているけど、もしかしてページがわからないのかな?





「126ページだよ」


「・・・・・・」




そう思うと居ても経ってもいられなくなって、僕はこそっと空条君に言った。

言った後でしまった!と思った。




「ぁ・・・ごめん。余計なお世話だったかな?」


じっと空条君が僕を見つめてる。

どきどきする。あぁ、彼はやっぱり美しいな。





「・・・いや。別に」


そういって僕が指定したページを開いた空条君が、僕はもっと好きになった。


短いけど空条君の喋れたことが嬉しくて、僕はついつい口元に笑みを浮かべる。

それを空条君にじっと見られてしまったから、ちょっと恥ずかしいな・・・





「・・・傷は」

「ぇ?」





「傷はもう良いのか」


「・・・!」




僕は大きく目を見開いた。

驚きすぎて、手に持っていた鉛筆が床に落ちた。


それをすっと拾った空条君が「ん・・・」と鉛筆を差し出してくる。



「ぁ、有難う」

鉛筆を受け取る時、ほんの少し指が触れ合って、僕は真っ赤になった。





「き、傷、だよね・・・平気だよっ、その・・・慣れてるから」


「あんなのに慣れるもんじゃねぇぜ」



ふいっと顔を背けて言う空条君。

まさか、いまそんなまさか・・・でも、もしかして・・・






「・・・僕を心配してくれてるの?空条君」


「・・・・・・」




この無言は肯定なのだろうか。

そう思った途端、僕の心は一気に温かさを持つ。


あぁなんということだ。空条君はこれほどまでに僕の心を動かしてしまうのか。



自分でも驚くほど僕は彼のことを・・・愛してる。




授業中で、教科書をただ子守唄のように呼んでいる生徒に、ほとんどの生徒は転寝している。


僕と空条君の席は一番後ろで、きっと誰も気付かない。


それを良いことに、僕はそっと彼に手を伸ばしたんだ。







「・・・僕と、お友達になってくれない?空条君」


握手を求めるように差し出した手を、空条君が見つめてる。

空条君と違って、虚弱な僕の手は細くて頼りないけど・・・






美しい君の友達になるなんて、ちょっと烏滸がましいかもしれないけど、だけど・・・




「・・・友達で良いのか?」

「ぇ?」



「・・・いや。手前の目は・・・そうは言ってねぇぜ?」


指摘された僕は慌てる。



自分の目を差し出していない方の手を覆い「ど、どんな目してた?」と問いかける。






「熱い・・・情熱的な目だ。俺をずっと見つめてた」


「ひっ、酷い人だね・・・気づいてたのに、ずっと黙ってたの?」




カァッと顔が熱くなった。

そんな視線に気づかれてたのに、何が『お友達になってくれない?』だ。


羞恥心でどうにかなってしまいそうな僕を、空条君はやっぱりじっと見てるのだろう。



指の隙間からちらりと見れば、やっぱり見てた。

しかもただ見てるんじゃない。




・・・笑ってたんだ。こう、小さく。




カァッ!!!と顔の熱が暴走しそうになる。

顔から火が出るんじゃないかな?ってぐらい。


どうしよう、なんて・・・なんて綺麗な笑みなんだ。





「君がっ、その・・・もし、もしも・・・嫌じゃなければ・・・」

何を言っているんだろう僕は。


けど口がつい動いてしまう・・・





「僕と・・・そのっ・・・付き合っては、くれません、か?」


「・・・・・・」




差し出されたままだった手が酷く震えてる。



きっとこの手は叩き落される運命なのだから。

僕の手は叩き落される覚悟はできていた。




なのに・・・





ギュッ

「・・・ぇっ」



無言のまま握られた手。

けどその手はすぐにパッと放され、空条君は前を向いてしまう。






「授業中だぜ。話は此処までだ」


「く、空条、君・・・」




「手前の思う恋人同士ってヤツは、名字で呼び合うのか?」




「!・・・じゃ、じゃぁ・・・承太郎、君?」


世界が一瞬にして輝く。




僕は頬を蒸気させたまま、彼をじっと見つめた。


それをチラッと見た承太郎君は、フッと笑った。







「・・・やっぱり、熱い、情熱的な目だ」


小さくそういった承太郎君に、僕はまた真っ赤になって机に突っ伏した。



情熱的な目で愛して







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