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「きひひっ・・・きひッ・・・」


「相変わらず気色の悪い笑い声だな」


薄暗い部屋の中、テレビゲームの明かりに照らされながら一人の青年が笑っていると、突然笑い声の主とは別の声が響いた。

ゲームをしている青年の名は名前。極度のゲーム中毒でオタク。ついでにヒッキーだ。



ぼっさぼさの髪によれよれのシャツ、ゴミやらゲームやら漫画やらが散乱した汚い部屋。


それが名前の世界だ。この外に出ることはほとんどない。出るとすれば、新発売のお菓子を買いに行くか新作ゲームを買いに行くかぐらいのものだ。






「・・・きひッ・・・随分な言い方じゃぁないか。この笑い声が聞きたくなけりゃ、此処に来なくても良いんだぜぇ?東方先輩よぉ?」

東方・・・そう呼ばれたのは学ランにリーゼント姿の学生、仗助だ。



名前がきちんと学校に行っていれば、仗助は名前の一つ年上の先輩にあたる。


仗助は名前の周りに散乱しているマカロンの入っていたらしい空き箱を見ながら呆れたような顔をする。






「・・・ったく。またお前マカロンだけ食って過ごしてんのかよ。常識的に考えて馬鹿だろ」

「きひひっ、人の話も聞かないで勝手に人の部屋漁ってる東方先輩に常識説かれるなんて、俺っちもう駄目かもぉ」





名前の言葉通り、仗助は先ほどから名前の部屋を漁っている。


傍にある漫画の山をどけ、ゲームの山を物色しているのだ。



指摘された当の仗助は「うっせぇ」と言いながらもその手を止めない。


名前の方も言う程仗助が部屋を漁っていることを気にしているわけでもないのか、テレビゲームから目を離す様子はない。






「なぁー。お前、この間新しいゲーム買ってただろ。貸してくれよアレ」


「きひッ、ざぁーんねん。そりゃもう虹村先輩に貸しちまった」



一旦手を止めて言った仗助に名前はコントローラーを操作する手を止めずに返事をする。





「げッ、マジかよ・・・先越された」


「きひひひッ、残念だったなぁ先輩?」

「その顔ムカつくぜ・・・」



「ってか、自分で買ったらどぉだぁ?いっつも俺っちから借りないでよぉ?そしたら嫌いな俺っちのとこに来なくてすむぜぇ?」


「・・・・・・」




普通なら「金欠中なんだよ、バーカ」という返事が返ってきそうなところだが、仗助の返事はない。


その代り、仗助はいろんな物の山を踏み分けて名前へと近づいてくる。



毛布にくるまっている名前の隣に腰かけ「別によぅ・・・」と言いながら頬を掻く。







「笑い方は気色悪いって言ったけどよぉ・・・嫌いとは言ってないぜ?」


何処か恥ずかしそうに言った仗助は「な、なぁ。何のゲームしてんだ?」と名前がゲームをしているテレビ画面をのぞく。



どうやら格ゲーだったようで、名前の操作するキャラクターが敵を瞬殺している。相当やりこんでいるようだ。






「そのゲーム対戦出来んの?」

「きひっ・・・先輩はゲーム下手くそだから対戦は嫌だぜぇ?腕ぇ磨いてから出直して来いってやつぅ?」


「・・・お前うっぜぇ」


「きひひっ・・・けど、嫌いではないって?」



「・・・・・・」

むぅっと黙った仗助は無言のまま名前の肩に自分の顔を押し付けた。





「操作しづらくてたまんねぇよ、東方先輩」

「・・・ぅっせぇ」



「東方先輩よぉ・・・」


名前がコントローラーのボタンをカチリッと押すのに連動し、テレビの中のキャラクターが敵をK.Oした。

そしてそのコントローラーをぽいっと捨てたと思えば――







「きひひッ・・・甘えたいなら最初からそう言えば良いんじゃねぇかぁ?」


ぎゅっと仗助を抱き締める。


びくっと震えた仗助だったが、抵抗するどころかそろりっと恐る恐る手を伸ばし、そのままぎゅっと抱きしめ返した。





「っ・・・お前の笑い声、やっぱ気色わりぃぜ」

「そんな俺っちを好きになっちゃったのはあんたでしょー?東方先輩」



「・・・仗助」


「きひひひッ、へいへい、仗助ねぇ?仗助」




ぐりぐりっと顔をこすり付けてくる仗助の頭を頭を乱暴に撫でる名前。

そのせいで髪型が少し乱れたが、仗助は構わずもっとと強請る様に今度は名前の手にすり寄った。






「きひッ・・・仗助、あんた随分ご苦労なこった。絶賛引きこもり中な俺っちのところに毎度何か理由をつけては会いに来る」


「・・・わりぃかよ」




「きひひッ、悪かったら追い出すぜぇ?俺っちはよぉ」


「!・・・そ、そうか」




じゃぁ悪くないんだな。と小さく呟く仗助に、名前は再び「きひひッ」と笑った。






「なぁ、今度さ・・・部屋の中じゃなくて、外にゲームしに行かね?」

「嫌だね。俺っちは此処を動かねぇよ。ヒッキー万歳。来るならそっちから来ればいぃだろぉ?」


「・・・こんなきったねぇ部屋にずっといて、よく病気にならねぇな・・・まぁ、来るけど」




抱きしめられたままぐっと顔を名前の方に向けた仗助は「・・・キス」と呟いた。





「きひひッ、随分と甘えん坊だなぁ、仗助」


仗助の後頭部に手を添え、少々乱暴にキスをする名前に、仗助はきゅっと目を閉じた。


しばらくして唇が離れると、仗助は自らの口を少し抑える。





「・・・あっま」

「きひひッ!さっきマカロン食ったからなぁ」


仗助も食うかぁ?なんて言いながらまだ空いていないマカロンの箱を見せる。





「・・・お前が食わしてくれんの?」


「きひッ・・・仗助も物好きだなぁ?こんな根暗ヒッキーを好きになるなんてよぉ?」



「それは俺が一番驚いてる」

「きひッ!そりゃ傑作だ」





名前は笑いながらマカロンを一つ仗助の口に放り込んだ。








一つ言えることがあるとすれば・・・


何だかんだで二人は愛し合っているという、少々クサイ台詞だろうか。




キスはマカロン味







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