薄暗い部屋の中央に座り込み、大きく背を曲げた。
「ゴホッ・・・ゲホッ、ぅ・・・」
「大丈夫か、ナマエ」
「ゥ゛・・・あ、ぁ・・・平気だ」
背後に立っていた影に向かって俺は返事をする。
此処は牢獄。
不治の病にかかった俺の、たったひとりの牢獄。
けれどある日から、その牢獄にやってくる者が現れた。
「いい加減、来るのを止めないと映るうつるぞ」
「ふんっ・・・人の病気などうつるはずもない」
「あぁ、そうか。アンタは人じゃなかったよな」
現れた者は人ではなかった。
閉ざされた部屋の扉、唯一開く窓。
その窓から毎晩のようにやってくる者の名は、確かDIOと言ったか・・・
「そろそろ返事を出したらどうだ」
「・・・・・・」
「このDIOの手を取れ。そうすれば、その苦しみから解放してやろう」
DIOが俺のところへやってきてしばらく。
DIOは俺に一つの“提案”をした。
「何だ。“吸血鬼”になるのは、そんなに嫌か」
不満そうに俺のベッドの上に腰かけたDIOに俺は苦笑する。
感染病かもしれないと言われ、俺のベッドのシーツは定期的に焼却処分される。
そんなベッドに何のためらいもなく座るDIOに、あぁやはり彼は異質なのかと思った。
「別に太陽の下に出られないのは今だって変わらないだろう。何を困ることがある」
そう。
俺は太陽の下に出られない。
そして心臓も弱い。
原因不明の心臓病。小さな刺激さえ、俺には毒。
当然、日光の光もアウト。
医者、家族でさえ俺を見捨てたというのに・・・
「逆に聞かせてくれ。何故DIOは、俺を吸血鬼にしたい?」
「・・・ふんっ」
DIOは嗤ってベッドから立ち上がると、そっと俺に歩み寄ってきた。
「それをこのDIOに言わせるのか?ナマエ」
ぐいっと胸ぐらを掴まれ、DIOの顔が近づいてくる。
それがキスをしようとしているのに気付き、俺は慌ててDIOの肩を押した。
「っ・・・駄目だDIO・・・病気が――」
「吸血鬼には関係ないと言っているだろう」
合わさった唇に、俺は若干諦めたようにそのキスに応じた。
「愛しているぞ、ナマエ。お前もだろう?」
「・・・それこそ、聞くだけ野暮ってもんだろ」
俺は苦笑を浮かべながらDIOの背中に腕を回してその背を撫でた。
こうやって誰かと触れ合うのだって、もう随分してなかった。
もう俺が触れ合ってられるのはDIOだけ。
それでも良いと思っている自分は、こうやって毎晩のように俺のところに来るDIO同様に、DIOのことを愛してしまっているのだろう。
「・・・俺が死ぬのは嫌?」
俺は微かに笑いながら尋ねる。
DIOは不機嫌そうな顔で俺の首筋に顔をうずめた。
何も言わないDIOに「吸血鬼なら、俺の血を吸ってみる?」なんて聞いてみる。
「お前は心臓が弱い。血を吸えば、そのショックで死ぬだろう?」
「まぁそうだね。けど・・・DIOになら殺されても良いかって思えるんだ。俺も相当、DIOに執心してしまっているらしい」
「ふんっ。良いことじゃないか」
DIOは自分の手首に爪をスライドさせ、その傷口から血を滴らせた。
「さぁ・・・」
真っ直ぐと俺の目を見て言うDIOに、俺は観念したように肩をすくめて見せる。
「・・・わかったよ、DIO」
俺はそっと・・・
その傷口に唇を寄せた。
おまけ⇒