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私はナマエ・ジョースター。

ジョースター家の一人息子です。


家は裕福で、私は将来父から当主の座を受け継ぐことになっています。



私がまだほんの小さな赤ん坊の、雨風の強い日・・・

父は事故で母を失ったそうです。



母がいなくとも私を立派な紳士に育てようとした父。


けれど私は幼くして気付いた。




私は他の同年代の子供よりも大人びてしまっている。


習う事は全て吸収してしまう。

このままでは天才を通り越して“異端”になってしまうと。




だから私は・・・演じることにした。






「ナマエ!もう少し品良く食べなさい。そんなことでは立派な紳士になれないぞ!」

「は、はぁーい、父さん」


マナーは完全に出来るが、普段はそれを表に出さない。



わかる問題も時間をかけてゆっくりと解けば、頭の出来もイマイチだと周囲が勝手に思う。

頭は冷静に。けれど紳士を目指す愚直な少年を演じ、私は今まで生きてきた。






バンッ!!!!


「・・・・・・」




目の前でたたきつけるように開いた馬車の扉を見つめながらも、私は演技をしていた。






「君はディオ・ブランドーだね」

場所から飛び降りてスタッと着地した彼に話しかける。


「そういう君は、ナマエ・ジョースター・・・」

何か内に隠すような声。けれども綺麗な顔立ちをしている彼に「これからよろしく」と笑顔で言った。

すると少し離れた場所からワンワンッという声が聞こえた。


「ダニー」

私は走ってきた愛犬をギュゥッと受け止め「よしよし、良い子だ」と言う。



「紹介するよ。ダニーってんだ。僕の愛犬でね。心配ないよ、けして人は噛まないから」


ダニーはディオにも近寄って行こうと・・・






「ふんっ」


私は嫌な予感がした。





バキッ!!!!!

「!!!!」


ダニーはディオに力いっぱい蹴られた。


私はすぐにダニーを抱き締め、腕の中で苦しげに鳴き声を上げているダニーに胸を痛くした。




「何をするんだ。許さんっ!!!!!」


ダニーをそっと地面に置き、バッと構えれば、あちらも好戦的に構えた。

愛する犬が蹴られてもなお演技を続ける私は滑稽でしょうか。







「どうしたんだね?」



きっとディオを出迎えに来たのだろう。

父が玄関から出てきて、私とディオを見た。




「一体何事かね」

「すみません。急に犬が飛び掛かってきたので、咄嗟に・・・」


さっと構えを解いて父に頭を下げるディオ。

・・・急に飛び掛かってきた?よくもまぁそのようなことを言えますねぇ・・・



父は「そうか」と頷くと、ディオを家の中に居れる。





「ようこそディオ君。今から君は私たちの家族だ。諸君、このディオ・ブランドー君は私の命の恩人のご子息だ。ナマエと同等に扱うよう頼むよ」

「畏まりました」


使用人の何人かで私に視線を送ってくる。

私は父にもディオにも気付かれないように『そうしてくれ』と命令を下す。



父は知らないが、使用人の中には“私に”従うために此処で働く使用人が何人かいる。

私が演技を初めて間もなく、私は私の演技をカバーする使用人を秘密裏に探しました。


父には私の出来は良くはないと言うように命じている数名の使用人。




もちろんその使用人たちの前では演技は止め“私”として彼らに命じる。

彼らは私を“ナマエ様”と呼んで従ってくれる。良い使用人たちだ。





「ディオ君も遠慮なくナマエと同じように生活してくれたまえ」


「ジョースター卿、ご厚意たいへん感謝いたします」



「ナマエも母親を亡くしている。それに同い年だ。仲良くしてくれたまえ」

私の肩にぽんっと手を置く父。





「ナマエ。ダニーのことはもういいね?」

「・・・はい。僕も急に知らない犬が走ってきたら吃驚すると思うし、気にしてません」


今此処で何かを言っても、ダニーの傷が癒えるわけではないですし、今はこう言うほうが利口でしょう。




「来たまえディオ君。君の部屋に案内しよう」

「はい」


階段を上って行く彼らの後ろ姿を見ながら「おや」と気付く。


ディオの荷物が置きっぱなし。

それに気づいた私はその荷物を持ってあげようと――






パシッ!!!!


ギリギリッ

「ッ・・・」

突然振り返った彼が私の手を掴んで力強く捻った。

私は苦悶の表情を浮かべる。


「何してんだ。気安く僕の鞄に触るんじゃぁないぜ。この小汚い手で触るな、と言ったんだ!間抜けが!」

「運んであげようと――」



「結構!!!」


「グッ・・・」



胸に肘を入れられ、蹲る。

それを影からこっそり見ていた私の使用人たちが怒りの表情を浮かべて駆け寄って来ようとしていたが、それを私は指で『待て』と命じた。



「早速、召使に運んでもらう」


服を整えながらそういった彼はまだ蹲っている私にずいっと近づき、耳元で囁くように言った。




「いいかナマエ。君の家に厄介になるからといって、僕に威張ったりするなよな。僕は一番が好きだ。ナンバーワンだ。誰だろうと僕の前で威張らせはしない」

「そんな・・・僕は仲良くしようと――」



「もう一つ。僕は犬が嫌いだ。怖いんじゃぁない。人間にへいこらする態度に虫唾が走るのだ。あのダニーとかいうアホ犬を僕に近づけるなよな」


人の愛犬を何処まで馬鹿にしてくれるのだろうか。




「二人とも何をしておるのだ。早く来なさい」

私たちに気付いた父の声が響く。


ディオが「はい」と言って階段を上がっていく中、私はふぅっと息を吐いた。



使用人たちが心配そうに見ている。

私は笑顔で『大丈夫』だというサインを送り、その後に続いた。






ディオが来てからというもの、父は私の演じる“到らない息子”に考えを改めたようです。

何かにつけて私とディオを比べ、優秀なディオを褒め、私を叱りつけました。



私は落ち込むようなフリをし、その後で私の使用人たちに更に上の学問を学ぶ。



「流石はナマエ様。もうこの語学を覚えたのですね」

「君の教え方が上手だからですよ」


「そ、そんな・・・勿体ないお言葉ですっ」


カァッと赤くなりながら言う彼は、元教師で、当時勤めていた学校からは学があるにも関わらずまるで雑用係のように扱き使われていた。


死にそうな顔をしていた彼に声をかけたのは今でもよく覚えてる。







「ぁ・・・時にナマエ様。あのディオとかいう餓鬼・・・ぃえ、ディオ様は如何なさるおつもりですか?まるでナマエ様を下僕のように・・・」

明らかに嫌悪の表情を浮かべている彼。


・・・ディオが私を陥れようとしているのは気付いていました。

私を孤独にし、腑抜けにする算段なのでしょう。



けれど私は今更そんな小細工、気にも留めない。






「ナマエ様・・・」

心配そうにしている彼。


よくよく見れば、他の使用人たちも心配そうな顔をしていた。

・・・まったく。私は良い者たちを使用人にしましたね。





「構わない。しばらくディオの好きにさせてあげましょう」


心配そうに私を見る使用人たちに笑顔でそういって、その日の勉強を終えた。



その後で私は此度仲良くなったエリナのところへと向かう。





「ナマエ!」

私を見た瞬間、笑顔で駆け寄ってくるエリナ。優しくて可愛らしい少女。




「久しぶりですね、エリナ」


彼女の前では演技を止める。

彼女は私の秘密を喋るような子ではないと信頼しているから。




「ナマエ、最近大丈夫なの?ぁの・・・ディオのこと」


「クスクスッ、心配してくれているのかい?有難うエリナ」



「し、心配するわっ。だって、貴方はこんなに誠実な人なのに、皆はどんどん貴方を・・・」

「構わない。こうやって誰か一人でも私を理解してくれている人がいるなら、私は幸せなのですから」



悲しそうな顔をしているエリナをそっと撫でれば、エリナはほぅっと落ち着いたように息を吐く。





「貴方は不思議な人。貴方は誰よりも落ち着いた思考をしているのに、何故そうやって子供のように振る舞うの?」


「私は普通でありたい。あまりにも力をつけすぎると、いずれその力は己自身を食いつぶし、私は“天才”から“異端”へと変わってしまうでしょう。それが恐ろしくて私は何時も演じている。こんな私は、きっと誰よりも臆病なのかもしれませんね」



「そんなことないわ!貴方は誰よりも強い人よ!」


力強く言ったエリナについつい笑ってしまう私。

エリナは「もぉっ!笑わないでっ」と顔を真っ赤にして声を上げた。




「あぁ、すみません。エリナ、君は本当に可愛らしい子だ」


「そ、そんな・・・恥ずかしいわ」





「君のような優しい子の友人になれて、私は嬉しい」

「私もよっ・・・私も、嬉しい」


恥ずかしそうに、はにかむような笑みを浮かべた彼女の頭をそっと撫でる。





「・・・っと、エリナ!僕と今度何処かへ遊びに行こう!」

「ぇ?ぁ・・・そ、そうね。何処が良いかしら」


突然演技を始めた私に一瞬きょとんとした彼女はすぐにその意図に気付く。



私はディオが木に隠れ、こちらを観察し始めたことに気付いていたから、演技を再開した。

エリナが頭の良い子で嬉しい。







・・・そろそろ、ディオもエリナに手を出してくるかも。






「エリナ。もしも何か苦しいことがあれば、すぐに私に言ってください。私がどうにかします」

そっと耳打ちすると、彼女は赤くなりながら「えぇ」と頷いた。

エリナ・・・私の愛しい友人、出来る限り守りますから。



・・・けれどその想いも虚しく、エリナはディオによって屈辱を受けることになってしまった。




謝っても謝り切れません。

それに、ダニーまで・・・




もう、私にどうしろと言うのでしょう。








「・・・そろそろ、私にも我慢の限界というものがあるんですよ」

ダニーの墓の前で私は呟いた。


私の傍に控えている使用人たちがごくりと息をのみ、恐る恐る「ナマエ様・・・?」と私の名を呼ぶ。



私はにっこりとほほ笑み、









「もう演技は止めようかと思います」







あまりにもあっさりとそう宣言した。




「貴方たちも演技を止めても構いません」

「!・・・か、畏まりました!」



何故だか嬉しそうに頷く彼ら。


私はざっと身をひるがえし、父の元へと行きました。








「父さん」

「む、ナマエか。何のようだ、今は忙しい――」



「私は今日限りで本来の私になりますので、どうか驚かないでください」


「何を言っているんだ・・・」

少し困惑したような顔の父に私は笑顔で「どうぞお気になさらず」と笑って部屋を出た。






次の日から、私は全ての演技を止めた。

マナーも完璧になり、勉強も全てパーフェクト。


紳士的なふるまいをし、何事にも動じず・・・





「どういうことだ・・・」

憎々しげな顔をしているディオににっこりとほほ笑みかけた。




「やぁ、ディオ。どうかしましたか?」


「お前・・・何時からだ」



「何がです?」





「何時からこの僕を騙していたと聞いているんだ!!!!!!」

おやおや、人聞きの悪いですねぇ・・・






「何時から・・・最初から、ですかね?」


その瞬間、こちらに向かって振るわれた彼の手を片手で止める。




ぱっとその手を払ってやれば、彼は再び私に手を伸ばそうとする。


それもパチンッと叩き落して、驚いた顔をする彼にそっと耳で囁いてあげるんです。






「小汚い手で私を触らないでくれませんか?ディオ」


まるで小さな子供に言い聞かせるように、優しい声で。

ディオの目が大きく見開かれ、その身体がわなわなと震えるのを見ながら、私は「気付いていましたよ」という。







「私を孤独にし、腑抜けにでもするつもりだったのでしょう?けれど私は君の思うよりもずっと普通とは違ったので。父とその使用人、周囲の人々は騙されたようですが、私もエリナも、私の使用人も君の本質に気付いていましたよ」


パチンッと指を慣らせば私の使用人が「お呼びでしょうか、ナマエ様」とほほ笑む。





「エリナを私の別邸に招待したい。そちらの用意を整えておいて。あぁ、出来れば甘いお菓子も用意しておこう。甘いものと温かい飲み物は心を落ち着かせる」

「畏まりました。すぐにご用意いたします。しかしそうすると、こちらの屋敷のことが・・・」



「ならしばらく父に暇を貰ってきなさい。父にはまだ君達が私個人が雇った使用人だとは言ってないのだから」

唖然としているディオを尻目にどんどん指示を出していく。



使用人たちが「畏まりました」と言って去って行った後、私はディオを見る。






「ディオ、君は何か勘違いをしているようだけど、私はただただ馬鹿息子として生きてきたわけではない」

「・・・・・・」



「何時私の秘密がバレるかわからない。けれどそうならないように、私は別邸で学び、別邸で休日を一人で過ごす。まぁ、父は私が何処かへ遊びに言っている程度の認識しかないですけど・・・あぁ、その別邸は私が父に黙って商取引をしたときに稼いだものを元手として建てたもので、名義は完全に私ですよ。使用人も私が個人的にスカウトした者達ばかりで、別邸の方でも大分お世話になっています」


「・・・・・・」



「ディオ、君も今度私の別邸に招待してあげましょうか?もちろん、そこでは君は客としてですから、使用人たちは君の命令は聞きません。けど最低限持て成しましょう」

屈辱に染まる彼の顔を見ながら笑い・・・




「ダニーとエリナのこと、私が怒りを感じてないとでもお思いですか?」

「っ、この・・・」



「あぁ、その懐のナイフを私に向けようものなら、私の警護を担当しているスナイパーがすぐに君の頭をズドンッと吹っ飛ばしますよ」



「!」


私はくすくすと笑ってディオに手を差し出す。







「先ほどは小汚いなんて言って申し訳ありませんでした。紳士たるもの、そのようなことを言うのは品性にかけていましたね」


そう。まるで君のように。




笑顔でそういえば、彼は屈辱を感じたのか、グッと奥歯を噛みしめた。



その顔が面白くて、私はまたにっこりほほ笑んだ。

結局私の手を握らない彼に「私は忙しいので失礼しますね」と言って背を向ける。



先ほどスナイパーの話をしたからか、彼は襲い掛かってくることはなかった。






「くすくすっ・・・」


私は嗤う。




「エリナにも教えてあげましょうね・・・」

もうディオのことは気にしなくても良いんですよって。






ぶち壊すなら徹底的に




あとがき

原作ぶち壊し過ぎてもはや誰状態でした。←
主が極端に弱かったり極端に強かったりすると、何だか楽しいです。




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