「ご、ごめん、プロシュート。突然呼び出して」
オロオロした様子でそう言ったのは、実は俺の恋人だ。
ソルベとジェラートを散々キモいだのなんだの言ってた癖に、俺の恋人は男。
しかも喧嘩すらしたこともねぇ一般人ときた。
最初は自分自身を疑ったが、今じゃ俺の方がほだされちまって、このザマだ。
突然電話でカフェに呼び出されたかと思えば、ナマエは何時も以上に気弱な様子で俺を見ている。
ったく、これじゃペッシ以上のマンモーニじゃねぇか。
「・・・で、用って何だ」
「え!?ぁ、あぁ、うん」
緊張した様子のままポケットに手を入れたナマエ。
「こ、これ。プロシュートにプレゼントしたくて」
そう言ってナマエが出してきたものに、俺は眉を寄せた。
「んだこれ・・・」
「へ?」
俺の反応があまり良くなかったことに焦った表情をするナマエ。
「お前、相変わらずひっでぇ趣味してんなぁ?えぇ?」
「えっ、き、気に入らなかった?」
気に入るも何も、こんな変なモン渡されて喜ぶヤツなんてなかなかいねぇだろ。
「何だこの形。一体何をモチーフにしてるんだ?」
コイツは兎に角趣味が悪い。
いや、コイツに趣味が悪いという自覚はない。
元々コイツは他人と一風変わった感覚を持っていて、俺もそこが気に入って付き合っているという部分もあるが、俺に対するプレゼントについてはまた別の話だ。
「ぇ、ぇーっと」
「・・・ったく、買うならもっとマシなもん買ってこい」
金の無駄だろ、と言った俺に、ナマエは更に焦った顔をした。
「か、買ったんじゃないんだ・・・」
「あ?」
「・・・そ、その・・・作ったんだ、ソレ」
「・・・・・・」
変な沈黙が流れる。
俺は「やっちまった」と思った。
ナマエも気まずそうな顔で自分の手にあるネックレスを見つめている。
俺だってまさかこれが手作りだとは思わなかった。
コイツのことだ、俺のために徹夜でもして作ったのだろう。見ればコイツの目の下にはうっすらと隈があるし。
「ご、ごめん、プロシュート。こんなのいらないよねっ・・・ごめん」
そういって席から立ち上がり、あろうことかゴミ箱へと歩いて行こうとするナマエを「ぁ、おい!」と止める。
ピタッと足を止めたナマエの手からソレを分捕ってやれば、ナマエはきょとんとした目で俺を見た。
「ひっでぇ趣味っつっても、いらないとは言ってないだろう」
「で、でも・・・」
「お前の趣味は今に始まったことじゃねぇよ。けどお前は、これが俺に似合うと思って作った・・・そうだろう?」
「ぅ、うん。プロシュートのこと考えながら、一生懸命作ったんだ」
へにゃっと馬鹿みてけに蕩けた笑顔を浮かべるコイツに俺はため息を吐く。
しかし俺はたしかにこんなコイツに惚れているのだということを自覚しつつ、そのネックレスを首に下げた。
・・・変な形の上にデカいソレは、思いのほか俺のスーツに合う。
「やるじゃねぇかナマエ。俺はコレ、気に入ったぜ」
「・・・ほ、本当に?」
「馬鹿。嘘つく必要がねぇだろう」
俺の言葉に嬉しそうに笑ったナマエは「実はさ」とポケットに手を入れる。
出て来たのは俺が付けているのと同じ形のネックレス。
「僕の分も作っちゃってたり・・・するんだよね」
照れたような顔をするナマエに俺までつい照れちまいそうになるが、そこは何とか抑えた。
「良いじゃねぇか。付けてみろよ」
「う、うん」
照れ笑いのままネックレスをさげたナマエは「嬉しいなぁ」と呟く。
「プロシュートとお揃いなんて、夢みたいだ」
「・・・馬鹿、何女みてぇなこと言ってるんだよ」
「ご、ごめん、プロシュート」
慌てて謝ったナマエは「けど嬉しいだ」と言いながら俺の右手を握って笑った。
「プロシュート!」
「あ?」
「す、好き。愛してる、プロシュートっ・・・そ、そのっ、何よりも誰よりも、とってもとってもプロシュートのこと、愛してるッ!」
こんな時ばっかり勢いが良い。
俺は大きなため息を吐きながらナマエを軽くハグして、
「俺も愛してる」
そう耳元で囁いてやった。
プシューッとコイツがショートした音が聞こえたが、俺は気にせずカフェの店員に珈琲を注文した。
もちろん会計はナマエもちだ。