「ディオ。俺、失恋した」
「何だ突然」
ジョースター家の養子となって初めて出来た“友人”と言う立場のソイツは僕の部屋のソファーの上に腰かけて大きなため息を吐いた。
家はジョースター家よりもずっと長く続いている貴族の家系で、その家の長子であるナマエの父とジョースター家の父は学生時代からの友人だという。
お坊ちゃんだから利用価値があると思って友達という位置に置いたが、ナマエは僕が思った以上に頭の良いヤツだった。
僕が猫を被っていることをすぐに見抜き「是非親友になろう」と言い出したのはナマエ。
ジョナサンともそれなりに仲良くしている様子が見受けられたが、それよりも長い時間一緒にいるのはこのディオとだった。
そのことに優越感を感じていて、何故優越感を感じるのかを理解するには、そう時間は要しなかった。
「実は俺、ジョナサンのこと好きだったんだ」
「・・・何?」
僕は軽く目を見開いた。
「けど、ジョナサンってエリナ・ペンドルトンが好きだったんだな・・・」
ショックだ。と言って項垂れるナマエ。
馬鹿が・・・
ショックだと言いたいのはこっちの方だ。
この僕の気も知らないで・・・
「ディオー、俺どうすれば良いと思う?」
何時になく弱気な顔をするナマエを鼻で嗤った。
「僕が知るわけないだろう」
「そう冷たいこと言うなよ。俺とディオの仲じゃねぇか」
「お前が勝手に僕を親友扱いしているだけだ」
「ちぇっ・・・つれねぇなぁ」
大きなため息を吐いたナマエに内心苛立つ。
頭が良いが察しが悪いのが玉に瑕だ。
「ジョナサンの何処が良いんだ」
あんな愚かなヤツの何処が・・・
「さぁ。ただ好きだなぁーって」
「・・・はぁ?」
「人を好きになるってそんなもんだろ?何処が、じゃなくて、好きになったから好きなんだ。よくタイプとか言うけど、そういうので恋愛をするんじゃ、視野が狭くなっちまう。だから俺は自分の感覚を信じて行動するんだ」
わけのわからないことを言ったソイツは、ソファーから立ち上がって僕の傍にやってきた。
「ま、失恋しちゃったもんは、しょーがねぇよな」
こっちに手を逃してきたナマエ。
何かと思えば、僕にぎゅっと抱きついて来る。
おいっ、と文句を言えば「ごめん。今だけ慰めてくれ」と情けない声。
あぁ、本当に情けない。
何故ジョナサンなんだ?このディオがこんなにも・・・
「ジョナサンを好きになるなど、馬鹿なヤツめ」
「あぁ。そうかもな。俺はどうしようもねぇ馬鹿だ」
自嘲する声。
僕はハァッとため息を吐き、ナマエの背を撫でた。
「少しだけだ。少しだけで良いなら・・・胸を貸そう」
「ははっ・・・今日のディオは優しいじゃねぇか」
僕の許可が下りて良い気になったナマエが僕の首筋に顔を擦りつけてきた。
少しくすぐったいと思ったが、悪い気はしない。
「ナマエ」
「んー・・・」
「お前はやはり馬鹿だ」
「んだよー・・・」
「好きになるなら、この僕にすれば良かったのに・・・」
ぽつりと言った言葉に、ナマエは無言になった。
しばらくすれば、僕に抱きつく力が強くなる。
「かもな」
短く帰ってきた言葉に、柄にもなく胸が高鳴った。
「ディオは俺のこと好きか?」
言葉にするなど僕に出来るわけもなく、僕は無言でナマエの背中に強く腕を回した。
ナマエは小さく笑い声をあげ「そっか」と頷く。
「じゃぁ、リセットしなきゃな・・・」
「・・・リセット?」
「ジョナサンが好きだった俺をリセットしなきゃ」
それは・・・
「・・・今度は、ディオを好きになっても構わないか?」
「軽い男だな」
「そう言われると弱るな・・・」
「馬鹿。冗談だ」
触れる程度のキスをナマエの唇にすれば、ナマエは気恥ずかしそうに笑う。
「初めまして。俺はナマエ」
「あぁ。僕はディオだ」
そう自己紹介をして、僕とナマエは口付けを交わした。