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「困るよぉ、お客さん」


ズルッとスパゲッティを食べていた俺は声のした方を見た。

見れば、この店の店長が一人の客の前で腕組みをして声を上げていた。



「ぃや、ちょっと待ってほしい。確かに此処に入れてきたはずなんだが・・・」

「無銭飲食ってアンタ、困るんだよねぇ、そういうの」



困ったような声のお客さんは、無銭飲食をする気ではなかったのだろうということがわかる。


何だか可哀相になってきた俺は、残りのスパゲッティを平らげて、口元を拭いながらそちらに近づいた。






「どーしたんですかー、店長」


この店によく来る俺とこの店の店長はちょっとした顔見知りだ。




「あぁ、ナマエ君。いやぁね、このお客さんがお金払わなくて」

「違う。財布が見つからないだけだ」


そういって自分の服をパタパタと触れるそのお客さん。






「じゃぁ俺が払う。いくら?」

「3リラ」


安いな。

精々ピザ一切れと珈琲ぐらいか?





「ほい、3リラ」


ポケットから出した3リラを店長に渡すと、店長は「まったく、いい大人なんだから、しっかりしてくれよぉ」とお客さんに言いながら店の奥に引っ込んでいった。





「お兄さんだいじょーぶ?」


「・・・すまない、金はきちんと返す」

項垂れているお兄さん。



わぉ、意外にも格好良い顔してる。

なかなかのイケメンだけど、見た様子じゃ貧乏なのかも。




「良いって良いって、見たところ、お兄さんはわざと金を払わなかったワケじゃないんだろ?だったら仕方ないさ」

「しかし――」





「じゃぁさ、お兄さんこれから俺とデートでもしよっか。それでチャラにしよう」





なんて、たかだか3ユーロでホイホイついて来るわけ――






「それだけで良いなら、是非そうしよう」

「マジかよお兄さん」


フラれる前提のナンパだったのに、まさかのOK。

俺は苦笑しながら「じゃぁ行こうか」とお兄さんの手を引っ張った。





「お兄さん、名前は?」


「・・・リゾット」



「へぇー、リゾットかぁ。あ、俺はナマエ。よろしく、お兄さん」


にこっと笑いながら「あ。あの店のジェラート美味しいんだよなぁ」と指差す。





「すまない、金が――」


「良いって良いって。俺のおごり」


ポケットから金を出してジェラートを二つ購入。





「あ、もしかして今満腹?」

「・・・・・・」


ふるふるっと真顔で首を振ったお兄さんが面白くて「はい、どーぞ」とジェラートを渡す。

最初は遠慮した風にジェラートを見つめたお兄さんは、パクリッとジェラートを食べて・・・




「美味しい・・・」

その口元に笑みを浮かべた。




「・・・かわい」

「?」



「何でもないよ、お兄さん」


俺は笑いながら自分の分のジェラートを食べる。





「おっと、お兄さん。付いてるよ」

冗談っぽくぺろっとお兄さんの口の端を嘗めれば「あぁ、すまない」と返ってきた。




「・・・お兄さん、もしかして天然?」

「?」


「まぁ良いや。あ、次あれ食べる?」


「ぃ、いいのか?」




「もちろん。俺も食べ盛りで腹減ってたんだー。一人で食べるより、二人で食べた方がずっと美味い」


にかっと笑いながら次々お兄さんと食べ歩いていった。








――・・・






「ふはー!そろそろお腹いっぱいかも。お兄さんは?」


「オレもだ。・・・久しぶりに、こんなに食べられた気がする」




「そりゃ良かった。あ、最後にあの店にでも入ろうか」

お兄さんの手を取って引っ張る。


入ったのはケーキ屋で、お兄さんは「まだ食べるのか?」なんて聞いて来た。




「違う違う。これはお土産用」

「お土産?」


「持って帰って食べてよ。どれが良い?いくつでも良いよ、実は俺、昨日バイト代入ったんだ」



工事現場のバイトで危険手当もつくから、結構給与は良いんだよなぁ。


「・・・いや、これ以上おごって貰うわけにはいかない。出よう」



此処まで来て出て行こうとするお兄さんの腕を掴んで引っ張る。






「良いから良いから。気になる人の前で格好つけたくなるいたいけな少年の気持ちを察してよ、お兄さん」

「気になる・・・?」


「っそ。俺、お兄さんのこと、すっげぇ気になってる。たぶんホレた」

「・・・・・・」



「っさ。何も一人で食べろとは言わないからさ。類は友を呼ぶって言うぐらいだから、お兄さんの周りも空腹な奴等いるんじゃない?ソイツ等に上げれば良いって」




「・・・じゃぁ、これと・・・これと、これと・・・」


ケーキを指差すお兄さんに俺はすかさず「箱詰めよろしく」と店員に言う。

計9個のケーキを箱に詰めたところで、お兄さんがこちらを見た。






「・・・有難う、ナマエ」

「・・・反則だよ、お兄さん」


右手でケーキの箱を持っているお兄さんの左手を掴んで、俺は店を出た。




まともに顔を上げられない俺に、お兄さんは「ナマエ?」と声をかけてくる。




「ぁー、もぉ・・・」

俺はバッと顔を上げ、お兄さんの顔をグイッと引っ張った。





「・・・・・・」


触れ合った唇は、さっき別の店で食べたパフェの甘い味がした。





「一回だけって思ってたのに、俺本気でお兄さんにホレちゃったじゃん・・・リゾット」


「・・・・・・」





「ばいばい、リゾット。また何処かで」

俺はにかっと笑ってお兄さんから離れ、手を振りながら駆け出した。




お兄さんが見えなくなったところで、俺は自分の唇を抑える。







「・・・やっちゃたぁ」


若気の至りと言うか、よくもまぁあんな恥ずかしいことが出来たものだ。

俺は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ込んでしまった。



おまけ



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