僕は“弱虫ナマエ”だ。
ギャングの・・・しかも“暗殺チーム”に所属している癖に誰も殺したことがない。
臆病でグズで愚かで・・・
取り得といえば、スタンドが少し使える程度。
けどそのスタンドだって、僕と言う馬鹿が使えば大して力にもならない。宝の持ち腐れとはよく言われたものだ。
「おいナマエ!またお前は泣いてんのか!」
「だって兄貴っ、僕っ、全然兄貴の役に立ってない・・・」
「・・・馬鹿。だからお前は“ママッ子野郎(マンモーニ)”なんだよ」
プロシュートの兄貴の整った顔がズイッと僕に近づく。
「お前は曲がりなりにもギャングだろうが。もっとしっかりしろ」
「で、でも・・・僕、グズでのろまだし・・・頭だって全然良くないんだ!何時も兄貴の足を引っ張ってばかり・・・」
「俺はお前のことをグズだののろまだのと思ったことは、ただの一度もねぇよ」
兄貴の鋭い目が僕を見る。
兄貴の目に映っている僕の顔が情けなく歪んでいた。
・・・兄貴には感謝してるんだ。
“この世界に来て”右も左もわからなかった僕を救ってくれた。
厳しいことを言われる時もあるけど、それは僕のため。全部全部僕のためなんだ。
本当はプロシュートの兄貴の役に立ちたいんだ。
「おいナマエ!聞いてるのか!」
「ご、ごめん兄貴!兄貴の顔に見惚れちゃってて!」
「・・・・・・」
「ぁ、え?」
「・・・馬鹿。泣き止んだならさっさと行くぞ」
ふいっとそっぽを向いて歩き出してしまう兄貴を慌てて追いかける。
兄貴がすたすたと歩いてしまうから、なかなか追いつけない。
あぁ、何だかわからないけど兄貴を怒らせてしまったのかも。
そう思うと一気に気分が沈んだ。また泣いてしまいそうだ。
「おいナマエ!さっさと来い」
そう言ってやっと僕の方を見てくれた兄貴に笑顔で駆け寄ろうとしたとき、猛スピードで迫る乗用車を見た。
運転手は携帯を片手に楽しそうに笑いながら運転しているように見え、前方をよく見ていない。
一方、こちらを向いている兄貴も車に気付かず道路を横断しようとしている。
最悪の事態を想定した僕はサァッと青ざめた。
「兄貴!」
「なっ」
僕はグイッと兄貴の腕を引っ張って兄貴を腕に抱きこむ。
そんな僕と兄貴のすぐ傍をその車が横切った。
ブワッと顔にかかった風と、腕の中にある兄貴のぬくもりに、僕は一気に力が抜けた。
「よ、良かったぁ、兄貴が無事で」
ぎゅっと兄貴を抱き締めたまま大きく息をつく。
「〜〜〜ッ・・・おい、ナマエ」
「へ?ぁ!ご、ごめん、兄貴」
抱きこんだままだった兄貴からササッと手をどける。
「よくやった、ナマエ。けど・・・だ、抱き締める必要はねぇだろ」
珍しくどもっている兄貴に驚きつつも「だって」と僕は下を向く。
「何よりも大事な兄貴に何かあったらと思ったら、つい抱き込んでしまって・・・」
「・・・・・・」
「兄貴?」
「さっさと行くぞ、ナマエ!」
「う、うん、兄貴!」
僕は兄貴の顔が真っ赤な理由もわからぬまま、兄貴の背中を追いかけて駆け出した。