おまけ
そう。それは突然だった。
漫画のために外を歩いていろいろとスケッチしている時、彼に出会った。
彼は公園のベンチに腰掛け、野良猫を撫でて微笑んでいた。
人を傷つけるのを嫌がる、典型的なお人よし。それが彼の印象だった。
彼を見た瞬間、胸がぎゅっと締め付けられるような感覚がした。
僕だって鈍感じゃぁない。これが恋だってすぐに気づいた。
けれど彼と僕には何の接点も無く、何時も彼は公園にいるのに声をかけられなかった。
僕からは無理だ。じゃぁ・・・彼から僕に近づいて貰いたい。
そう願ってしまった僕は、暴挙に出た。
【名前は岸部露伴のことが気になってしかたない】
ヘブンズ・ドアーを使って彼に書き込んだその文字。
すると彼は僕が気になって仕方なくなった。
家の周りをうろうろとしている時もあった。
郵便受けの中、ごみ袋の中を見ている時もあった。
窓から部屋の中を覗き込んでいる時もあった。
彼が僕に興味を持っている!そう思うと、つい頬が緩んだ。
だから僕はもっと彼に僕のことを知ってもらいたくて、彼にまたヘブンズ・ドアーを使い、合鍵を渡して、盗聴器も渡した。
彼は自分がやったと思い込んでいるが、全ては僕が仕込んだことだ。
けれど彼は優しいから罪悪感を感じるのだろう。
ある日康一君を家に招いていた僕。何時も通り僕の家の周りをうろうろしていたはずの彼は、僕の家の中をのぞきながら泣いていた。
泣かせるつもりなんかなかったのに!
そう思いながら部屋を飛び出せば『露伴さんっ、ごめんなさいッ・・・好き、好きですっ』謝りながら告白された。
僕が気になって仕方ないという風に仕向けた。けど、好きになるようにはしていない。
なのに彼は僕を好きになってくれた!
嬉しくてたまらない僕は、彼に書き込んだ文字を消した。
彼はやっと自分がストーカーを止められたとほっとして、穏やかに笑っていた。
「露伴さん。これ、返すよ。ごめんね・・・今まで」
渡されたのは合鍵やらハンカチ、ペン・・・その他いろいろ。
そんなのどうでも良いんだ。いや、合鍵はむしろ重要だが・・・
「それ、もっててくれて構わない」
「え?」
「名前が僕を好きで好きでたまらない証だろう?」
「・・・そうだね」
恥ずかしそうに笑った彼にまたぎゅぅっと胸が締め付けられる。
あぁどうしよう・・・
「露伴さん・・・好きです、露伴さん」
「僕も」
彼が好きすぎて、またついついヘブンズ・ドアーを使ってしまいそうだ。