「そっち!曲がった!」
「ちょっ…みょうじ…っ」


 ぐいぐいと引っ張られる腕の向かうまま、俺は走る。そして止まる、それの繰り返し。しかも止まったのは電信柱の影。まるでドラマ、まさにドラマ。端から見ればあきらかにバレているだろうと思わせるのに何故かバレていないという尾行行為。…自分がこんなことをするとは。
 しかも俺の腕を引っ張るみょうじ(尾行行為を提案したのもみょうじである)は「木の枝とか持てばもっとバレないと思うんだ!」なんて、顔を輝かせて言った。「いや…それは流石に…」「なんで?」「…」結局、理由付けをすることができなくて俺の両手には木の枝がしっかり握られている。………なんで?


「人の恋愛沙汰は踏み込むもんじゃなかよ」
「…でも、気になる…!」
「確かに俺だってそうじゃけど…」



 なんでこんなことに及んでいるのかというと、もちろん今朝の柳の一言「女を待たせているんだ」があったからだ。そう、俺とみょうじは柳を尾行している。相手は参謀、バレる可能性が高いのになんだかんだ付いて来てしまっているのは、きっと俺の腕を掴んでいるのがみょうじだから。他に何がある。つくづく俺はみょうじに甘いと思った。大丈夫、好きな人にはそれでいい。



「それにしても蓮二の彼女かあ…どんな人だろ?ってか中学校のときにそんな感じのひととか、居なかったの?」
「うーん、俺の知る限りではおらんけど…」
「じゃあ他校かなあ…!あっ、学校で一緒にならないってことはやっぱり他校なのか!やだーやるじゃん蓮二ったら」
「…みょうじ」
「何?ていうかどうして私に言ってくれなかったんだろう?あーもう蓮二の馬鹿!仁王くんも聞いてなかったでしょー何でだろうねえ、もしかしてすっごいすっごい美人さんで…」
「…みょうじ」
「だから何ー?言いたいことはちゃんとハッキリと…」
「柳行ってしもうたんじゃけど」
「………あー!」


 もっと早く言ってよ仁王くん!と俺のことを軽く小突いたみょうじは足早に柳を追った。そして、俺は気付いたことがある。
 彼女がいつもより饒舌だということだ。



 …何故?



「(もしかして…)」
「仁王くん、さっきから黙っちゃってどうかした?」
「みょうじって、」
「うん?」
「…柳のこと、好きなんか?」
「……え…」


 確かにみょうじは知りたがりの癖があるが決して饒舌ではない。かと言って口数は少ないわけではないが、今日はずっとしゃべり続けている。それは、きっと。何かに緊張している、何かを隠そうとしている、何かに怯えている、そんな理由からだ。その「何か」は多分、アレ。アレってのは、みょうじが柳のことを好きでその柳の彼女を追うという、つまり「失恋」の感情。
 それは俺の失恋でもあるんだ、実際先程みょうじに柳のことを好きかと問うたときも俺はできるだけポーカーフェイスに笑ったつもりではあるが、どこか泣きそうな表情をしていたはずだ。みょうじは俯いたまま顔を上げない。


「…みょうじ?」
「…」


 ああ、これでみょうじが顔を上げたときに真っ赤だったりしたら俺失恋決定だよなあ。


「…なんで?」
「みょうじ?」
「…ごめん、私、帰るね」
「ちょっ…!」


 走り去る彼女の背中をぼんやり見つめる。追いかけなきゃ、追いかけなきゃ、と脳が俺の神経に訴えかけるけれどどうしてか体中が震えて、動かない。


 ああ、そうか。



 追いかけた先にあるみょうじの顔を見るのが怖いんだ。手に持った木の枝がぱさりと落ちた。…なんだか俺、馬鹿みたい。


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