「あ、仁王くんおはよ」 「おはようさん。…柳と一緒に来たんか?」 「うん。いつもは来たらすぐ校舎に行くんだけど、偶には朝練見ようかなって」 朝、テニスコートに行けばフェンスのところにみょうじが立っていた。朝にここで会うのは珍しいことだった。俺も真田に叱られるのはごめんなので早くコートに入りたいところだけど、相手はみょうじ、…仮にも好きな人なのだ。みょうじはふと思い出したように「あ!」と小さく叫んだ。 「仁王くん昨日ごめん!」 「?」 「メール!メール返さなかった!」 「ああ、ええよ大丈夫」 アドレスを柳から教えてもらった日から、俺はみょうじと週1ぐらいでメールをしている。少ない、と思われるかもしれないけれど察して欲しい。俺のこの性格だ。みょうじのあの性格だ。「…多い方だな」、協力してくれている柳は静かに呟いた。ちなみに昨日の場合はみょうじが最初にメールを送ってきた。件名は無題。もちろん本文の最後は「なんで?」。俺のアールイーも空白。本文は「それは」から始まる。みょうじらしい、みょうじらし過ぎる内容。だからこそ嬉しかった。 「蓮二に遅くまで起きてると身長伸びないぞって言われて即行寝ました」 「はは、みょうじっぽい」 「蓮二デカイから説得力があるのなんのって!」 みょうじは柳の家に下宿している。遅くまで携帯をカチカチとしていたみょうじに対し柳が開眼でもしてそう言ったんだろう。彼女の怯える姿が想像できる。「…ぷっ」思わず笑ってしまうと、「え、なんで!」と頬を膨らませた。 ちょうどそこに丸井が来た。「おーっす仁王!…と、柳の彼女?え、なにこの組み合わせ」あのときと同じようにエメラルドグリーンは音を立てて割れた。 「柳の彼女じゃないんよ」 「あ、違えの?」 「幼馴染じゃって。俺も最近仲良くなった」 「へえ!あ、俺丸井ブン太。シクヨロー」 「…」 「みょうじ?」 「もしかして、丸い、くん?!」 「…」 「…」 沈黙とか静寂とかってこの瞬間のための言葉だと思った。ただ、俺は可笑しくて仕方なくてもう一度「…ぷっ」。すると丸井は泣き目になった。「俺こいつ嫌い!柳と仁王を足して2で割った感じがする!嫌い!」 「…なんで?」 「さあ?……くくっ」 |