部室に行ったら柳が居た。柳しか居なかった。昼休みに自分の気持ちが分かってしまったものだから、ある意味柳に関係のあるものだから、…少しだけ気まずい。


「なんだ仁王」
「…なんでもなか」
「何か隠しているだろう」
「そんなことなかよ、あっそういえば柳、みょうじのアドレスを教えて欲しいんじゃけど」
「…」
「…。みょうじには、言ってあるから…」
「隠しているだろう」
「いや、アドレス…」
「隠しているだろう」
「なんなんじゃお前さんら幼馴染!」



 答えなきゃ、答えなきゃ、という思いに駆られた。しかも焦る。心臓に悪いなあこの幼馴染。少し、柳の目が開かれた。


「すまない冗談だ。なまえのアドレスだな、今から送る」
「あー、ありがとさん」
「会ったのか?」
「ん、昼に購買でな。まさか工業の方じゃとはな」
「建築が勉強したくてわざわざ立海。大したやつだと思わないか」
「思う。言ったら、なんで?って返されたけどな。あ、来た。」
「ちなみにあいつのメールは改行が無いのと、3通に1通はなんで?が入るからな」

 みょうじの「なんで癖」。幼い頃からのものだったとして、そしたらもしかして柳と乾のプレイスタイルの理由って。


「柳と乾がデータテニスをするのってもしかして」
「ああ、なまえのなんで?に答えていたら自然と知識が増えたから…かもな」


 つい想像ができてしまって、俺は笑った。幼い頃からのそのやり取りは、今の柳や乾を支えていて、かつ俺の心を奪った。みょうじは面白い奴じゃなあ、そう言うと柳は「それだけか?」と俺に問うた。





「仁王、…なまえに惚れただろう」
「…そんなわけ、ないじゃろ」


 嘘を吐いた。別に柳にはいずれバレてしまうだろうし話すべきだと思っていたから肯定しても良かったのだけど、気恥ずかしくて反射的に嘘を吐いた。



「ちなみにな」
「…な、なんじゃ」
「俺もなまえのことを好きだったことがあるんだが」
「!」
「5歳ぐらいの話なんだが」
「あ、ああ…(よかった)」
「今は俺と貞治となまえの中でも笑い話の一つなんだが…」



 かれこれ幼稚園ぐらいの話。柳はなまえが好きで、まあよくドラマでもありがちな展開。「ぼくね、なまえのことが好きなんだ」「なんでー?だけどあたしも好きだよ!」「じゃあ大きくなったらけっこんしよう!」「なんでー?」


「…なんで、ばっかなんじゃな」
「今も変わらないと思うぞ」
「…。」
「ちなみに俺はもう妹のような感覚でしかないから安心しろ」
「や、じゃから…!」
「仁王、なまえに惚れただろう」



「…敵わん」

 二分前の嘘は呆気なく見破られる。あいつは手強いが協力はするからな、と柳は目を開く。すまん、怖い。でも、ありがとう。


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