あれからずっと、みょうじと一緒にいるときもいないときでも気になってしまうのは、みょうじが気にしてくれないこと、だった。俺ばっかりが気になって気になって苛々して。情けない、と思う。極力考えないようにした。…けれどそう考えるほどに一層考えてしまうのも事実である。



「情けないな」
「(言うと思った…!)」
「なまえが大丈夫と言ったんだ、他に何がある」

 結局、柳のところに相談に来てしまう自分は。予想通り柳からは情けないという評価をもらった。当たり前だが嬉しくはない。だけど、でも、実際そうなんだ。気にしてほしいなんて情けない。妬いてほしいなんて情けない。
 情けない、というより、何て言えばいいかはっきりは分からないけど、…申し訳ない。


「ところで仁王、告白されたときにありがとうって言ったそうだな」
「…なんで知っとるんじゃ」
「…一人しか居ないだろう?」

 ああ、と俺は頷いた。告白してきた彼女しか、そのことは知らない。みょうじも見ていたはずだけど声までは聞こえなかったらしい。彼女、他言しすぎじゃなか?呆れて言えば、柳は首を振った。



「言い方を間違った」
「はあ?」
「その彼女、じゃない」
「?」
「俺に相談するやつは、仁王以外に一人しか居ないだろう?」


 俺以外に、柳に相談するやつ。



「…みょうじ」
「まあ、そうだな」
「声もちゃんと聞いてたって、こと」
「そうだな」
「…」
「仁王くんって優しくなったよね、だそうだ」
「…え?」

 柳の表情が柔らかくなった瞬間を俺は見逃さなかった。それと同時に、そのことを柳に話した瞬間のみょうじの表情も、なんとなく浮かんだ。俺が優しくなった?優しく、なったのか。人の話を聞こう、必死に話してくれたらお礼を言おう、全てみょうじに会ってみょうじと一緒にいて思ったこと。なんで。そのたった一つを聞き逃さないために思ってきたこと。



「どうせなまえのおかげ、とか言うんだろう」
「う」
「そしたらもう俺は言うことはもう無い。…ってなんで二人に同じことを言わなければいけないんだ俺は」

 柳が苦く笑った。同じことを、言ったのか。何だか妙に嬉しくて、俺はありがとなと呟いた。



「それにしても情けないよな」
「……はは」
「仁王は俺のとこへ来るべきではない、なまえのところへ行くべきだ、分かってるだろ」
「ん」
「ああ、それから」


 思い出したように柳は口を開き、それから珍しく楽しそうに笑った。




「あいつだって人並みのことを考えている」
「人並み?」
「仁王くんって人気あるよね、と」
「…」
「これから心配だよ、と」



 気にしてほしい。
 気にしていないんじゃなくて、隠してたんだ。ああ、そっか、そうだったんだ。すまん俺ばっかり。そう心の中で小さく呟く。早く会いに行こう、思いが通じたあの日みたいに。早く会いに行って、正直に言おう。正直に言ってもらおう。溜め込んでいるだろうあの言葉をぶつけてもらおう。その度に俺は優しくなれる、から。




「分かったところで、もう俺のところに相談しに来るなよ」
「…"なんで"?」
「なんでもだ、なまえにも言っておいてくれ」


 なあ柳、彼女に正直に言う前に一度だけリハーサルってことで正直に言わせて。本当にありがとな、って。



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