気まずい、みょうじの姿の見てすぐにそう俺が思ったのとは裏腹に、彼女は何とも無いように「仁王くん帰ろう!」と笑った。


 柳は真田と幸村と買い物に行くらしく今日はいない。けれどみょうじはいつものように今日あったことを楽しそうに話してくれた。授業中に居眠りをしてしまったこととか、先生が突然言ったつまらないギャグのこととか。俺も相槌をうって笑ったり口を挟んだりするけど、頭の傍らにはひとつ思ってることがある。


「(…気にしてないんか、な。)」


 さっきの、俺が告白されてるところ。確かに見ていたはずなのに何も言わない。得意のあの言葉も言わない。逆の立場だったなら、俺は気になって仕方ないと思う。何て言われたの?とか、相手は誰?とか。少しうざったいかもしれないけど、好きな人が告白されているのが気にならないわけがない。
 やっぱり彼女は、気にしていないのだろうか。


 …全部ひっくりかえして正直なところを言うと、俺は、彼女に嫉妬されたいのだ。当たり前のように。





「…みょうじ」
「なに?」
「気に、ならんか」
「…え?」
「さっき俺が告白されてたこと」

 こんなことを自分から聞いてしまうのは女々しいのかもしれない。ダサいのかもしれない。昔の俺ならあり得ないのかもしれない。だけどみょうじのことは誰が思う以上に好きで、俺のこと、気にしてほしくて。


「…」
「みょうじ?」
「うん、あんまり気にならないかな」
「…」
「だって仁王くん、ちゃんと断ってくれたでしょ?気にすることなんて何もないよ」
「、そっか」
「それとも、もしかして気にしてほしいとか?」



 いたずらに笑ったみょうじがそんなことを俺に言った。図星。素直に頷こうか、首を横に振ろうか迷った。だけど、気にしていない彼女に「気にしてほしい」なんて言ったところで困らせてしまうだけ。結局俺は、言うほど深く悩まずに後者を選ぶのだった。


「ううん、心配させてたらって思っただけじゃから」




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