今日のみょうじは、なんとなく落ち着きがなかった。どうしたのかと聞けば、聞いた俺ではなく隣の柳を見て一言。

「貞治が遊びに来るんだよね!」




 貞治。俺らのライバルの青学の乾貞治。柳とみょうじの幼なじみでもある。今日はそいつが遊びにくるらしい。すると、たったいま進行形で駅に向かっているのは。


「だからみんなで駅に迎えに行くの」
「…俺も?」
「もちろん!」


 てっきりこないだの駅前のケーキ屋に行くのかと思ってた。………俺あいつと話したこと無いんじゃけど………そんな言葉は言えずに、もうすぐそこに駅。

「貞治!」
「なまえ、久しぶり。蓮二も」
「ああ、久しぶりだな」
「ところでどうして仁王が」
「…どうして…じゃろう」


 俺の言ったことを聞いて、柳が俺の内側の気持ちを理解したらしい。愉快そうに笑った。


「すまないな仁王、伝えずに連れてきてしまって」
「え、ああ…」
「貞治もすまないな。どうしても会わせておきたくて、……な、なまえ」


 どうやら二人で相談していたらしい。みょうじは小さく頷いた。「仁王くん、言ったら気つかって一緒に来ないでしょ?」…すっかり見通されている。



「貞治」
「?」
「仁王くんは、私の好きな人です」



 俺の腕をぎゅうと掴んでそう言った。反則、すぎる。俺は自分でもわかるほどに顔が火照った。乾は静かに、仁王は?と。



「俺も、…みょうじを好い、とる」


 それを聞くなり乾は満足げに笑った。それなら良かった、と。



「良かった?」
「ああ。君の様子を見る限り本気でなまえのことを好きなようだから」
「…」
「赤くなるなんて詐欺師が意外だ」

 鞄から立海と書かれたノートを取り出した乾。「うわー出たよ貞治名物!」嬉しそうにするみょうじに、仁王のデータが取られたんだぞ?って呆れた柳。赤くなるという俺のデータが何の役に立つかは不明だが…やっぱり、こいつらは。


「いいもんじゃな、やっぱ」
「仁王くん?」
「幼なじみ。三人がきらきらしちょる」


 顔を見合わせて笑った三人。俺は三人の時間に追いつけるはずもなくて、そもそも、追いつかなくたってよくて。「今から買い物して家に帰るけど仁王くんも来るでしょ?」っていうみょうじの誘いを、断った。




「ううん、俺はいい。三人で行って」
「え?一緒に行こうよ?」
「仁王、俺に気をつかってるならその必要は…」
「大丈夫じゃき。乾、そういうんやないんじゃ」


 笑って首を振ると、いつも通りみょうじが首を傾げて「なんで?」と。そしてあの男が口を開く。いつも見通して助けてくれる柳が、笑って言った。


「なまえ、貞治、ここは仁王の言葉に甘えよう」
「蓮二、」
「久しぶりの三人の時間なんだ、それに」



 仁王も、俺たちと一緒にいるなまえが好きみたいだしな。
 それを聞いてみょうじは、なんじゃそりゃと笑った。でも、全く柳の言うとおりで。俺は、柳と乾と一緒にいるみょうじが好き。彼女のいつもの口癖があるのは少なからず彼らのおかげであるから。それに、俺には踏み込まなくてもいい場所もあるということ。三人に関心が無いわけでは全くなくて、だけど、俺は「幼なじみ」ではないから。


「三人の時間、大切にしてほしいんじゃよ」
「…私たちの時間?」
「うん、いっぱい物知りになっといで」
「ふふ、わかった」

 そうして三人を見送った。すると背後から「あっれー?雅治?」と間延びした声。




「…姉貴」
「珍しいね、駅で会うなんて」
「そうじゃな。おかえり」
「……うわ、雅治が素直だなんて珍しい!」
「…」
「一緒に帰ろっか雅治、お姉ちゃんがケーキ奢ってあげる」
「………よっしゃ」

 一緒に帰ることになった姉貴。こんなことは、滅多にないから。ここからは、みょうじも踏み込めない姉弟の時間。そのときまた後ろから「あ、姉ちゃんに兄ちゃんじゃん!」、弟だった。今日はなんか良い日だねって姉貴が笑った。家までの三人の時間。



 みょうじと、違うけど同じ時間。なんとなく嬉しくなって一人で笑った俺は姉貴と弟いわく「きもい」らしい。なんで、じゃろうなあ?


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