俺とみょうじの間柄が友達から恋人に変わったとは言え、大して二人の時間の過ごし方は変わらない。帰りだって相変わらず三人だ。付き合うことを知らせた丸井は普通付き合ってたら二人で帰んねえか?って少し呆れたように言った。けど、俺は柳を邪魔だとは思わない。もちろんみょうじも。柳も柳でそれを感じているから、遠慮しない。
 可笑しいかもしれないが、俺たちの距離感は今まで通りが一番。そんな気がする。



「…二人に謝らなくてはいけないことがあるんだ」

 そんな柳が帰り道、急に足を止めバツの悪そうな顔をした。すぐに反応できなかった俺とみょうじは三歩柳の前にいる。振り返った俺たちは、え?と柳を見つめた。



「どうしたの蓮二?」
「…ん、」
「柳?」
「…この前の。……俺のおせっかいだったんだ」


 この前の?おせっかい?



「この前っていつ?」
「…なまえたちが、俺のことを追っていた日」
「…」
「…」


 柳が俯く一方で、俺たちも黙る。そしてみょうじは俺のワイシャツを掴んでぐいぐいと。そして真っ青な顔、しわの寄った眉間。どうした?と問おうとしたときに口パクで何かを言った。

 び、こ、う、し、て、た、こ、と、ば、れ、て、る!、な、ん、で?、




「…。…ぶっ」
「え」
「なんで、じゃなかよ。当たり前」
「え…」
「柳にバレてないわけないじゃろ」
「言ってよ!」


 みょうじが俺のワイシャツを掴む力が強くなる。しわくちゃになるだろうけど、構わないんだ。そんなみょうじをなだめて、柳に向かい俺は「だからおあいこじゃろ、何があっても怒ったりせんよ」って笑った。みょうじも、「そうだよ蓮二!」と俺から手を離し柳の隣へ歩み寄った。
 柳はなまえ、と彼女の名前を呼んで一瞥する。



「女を待たせている、というのは嘘だったんだ」



「…え!?」
「…ええ!?」
「………すまない」


 嘘。柳の吐いた、うそ。みょうじは今まで見たことが無いくらい酷く悲しそうな表情を見せた。



「なんで?」
「…」
「なんで嘘なんか吐いたの?」


 さっきまで悲しそうな顔をしていたくせに、今度はすごくすごく怖い顔をしていた。これも、初めて見る。そんなことをぼんやりと考えていると、ふと、思い出す。



 おせっかい。





「…柳、もしかしてなんじゃけど…」
「仁王くん?」
「俺たちを二人にするためか?」
「…」
「俺たちが、二人で、自分を追いかけてくるってわかってたんじゃろ?」


 静かに柳は笑って頷いた。「やはり鋭いな、仁王は」、それだけであとは何も言わなかったからここからは俺の推測だが、そのまま街の方へ行って行方を眩ませて。そして俺とみょうじを放課後デートさせたかったんだと、思う。



「怒るに怒れんじゃろみょうじ」
「うー…」
「ちょっと間違ったけど、ぜんぶ、柳のおかげ」
「…そうだけど!」
「なまえ」
「…何」
「もう嘘は、吐かない」


 柳はそっとみょうじの頭を撫でた。



「柳」
「…なんだ?」
「駅前のケーキ屋。今から行くか」
「…ああ、そういう約束だったな」
「え!仁王くんと蓮二が、ケーキ屋の約束!?」
「うん」
「なんで!?」
「男同士の秘密」
「なんでー!」


 三つの影が、揺れた。


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