…今更だけど、みょうじが柳のことを好きなのかもしれないということについては、よくよく考え直してみれば可能性は十分にあった。


 確かに柳は、俺は幼い頃はなまえが好きだったが今は違う、と言った。柳が、言った。それに安心しきっていた俺はつくづく馬鹿だ。柳はそうでなくとも、みょうじがそうであるかもしれないというのに。俺も部活仲間として柳と4年間やって来たけれど、柳はすごく良い奴だ。偶に「そんな情報どこから!」という恐るべき場面もしばしばあったけど、でもやっぱり優しい奴だ。そんな柳と、彼女は、長いこと一緒にいたのだ。俺が彼女と知り合ったその日、幼馴染という存在が居ないから二人が羨ましいと言った俺に、「じゃあ私と幼馴染になろうか」なんて彼女は簡単に言ったけれど、二人の積み重ねてきた年月に俺が敵うはずない。


 ほら、みょうじは柳のことが好きで俺は失恋、という可能性だって十分に、十二分に、あるんだ。




「(…で、なんで参謀はこんなに怒っとるん…!)」
「仁王」
「……なんじゃ」
「昨日、なまえが真っ青な顔して帰ってきたんだがどういうことだ」


 真っ青?真っ赤じゃなくて、真っ青?どういうことだ。ああ、もしかしたら柳に顔を合わせづらかった…とか。ん?あれ?だけどあの後、柳は女とやらと出かけて帰りが少なからずみょうじよりは遅かったはずだ。みょうじの方が遅かった、って?



「具合が悪いのかと思って昨日は寝かせたんだが、やっぱり熱を出していた」
「…え」
「…。昨日、」
「?」


 柳が伏せていた顔を上げた。同時に目を開いた。その目の奥に宿っていた感情は、



「お前はなまえと一緒に居ただろう、どうしてあいつと一緒に帰ってこなかった!どうして具合の悪かったあいつをそのままにしたんだ!、仁王!」



 …紛れもなく、「怒り」だ。



 けれど反抗したくなるのが人間の、というよりこの年頃の俺らの性である。どうして、と言われてもおそらくみょうじの具合が悪くなったのは俺の前から去った後だろう。なにより、事を元から辿れば、こんなことになったのは全部、全部、ぜんぶ。



「…柳の所為、じゃろ…!」




 短い期間ではあった。それでも俺の積み重ねてきた「すべて」が音を立てて、崩れていく気がした。



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