私が学校で宿した小さな決意は、家に帰れば少しずつ薄れていた。どうせ来週になれば会える。「合宿どう?」なんて、「合宿どうだった?」と過去形にして問えばいいだけの話題だ。それに、夜9時半なんてこの時間は、きっと先輩たちと部屋でお話して盛り上がっているはずの時間だ。私なんかにそれを遮る権利はない。


 やっぱり電話するの、やめよう。


 そう思って携帯をベッドに向かって放った直後のことだった。その放り出された携帯から、歌が聞こえた。赤也が好きと言っていたバンド。だから私も好きになったバンド。この歌が携帯から発せられるには、あの人から電話が来たことを示している。…どう、して?疑問に思いながらも押した通話ボタン、当てた耳元からは想像には無かった声が聞こえた。


「ちょっ、と丸井先輩やめてくださいって!」
「はあー?いいじゃねえか、可愛い彼女だろ、ほれ」
「ったく、…なまえ?」
「、赤也?」
「…おう」

 それから、会話が無くなってしまった私たち。「合宿どう?」そんな簡単な言葉も、少し不機嫌そうな赤也の前では掠れた息と共に消える。沈黙の後に先に口を開いたのは赤也だった。


「…ごめん」
「え?」
「先輩が勝手に掛けただけだから」
「う、ん」

 電話越しに、おい!と丸井先輩の怒ったような声が聞こえた。恐らく赤也はそれを無視して、私との会話を続ける。…これを会話と呼べるかは分からない、けど。


「そっちに戻ったら電話するから」
「…うん」
「合宿中は多分メールとかも返せねえから」


 じゃあな。

 通話時間1分03秒、そんな言葉が画面に浮かび私は泣きそうになりながら携帯を見つめる。画面が暗くなる。そのままパタンと携帯を閉じると、私の涙腺は一気に緩んでしまったのだった。


片道切符の涙





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