「今日からテニス部学校来ないんだってね」


 友達の莉伊が数学の予習をしながら呟いた。目線は私に向けないままで、あんた知ってたの?と続ける。実は私も昨日知ったと返すと一瞬だけ顔を上げて私と視線を交わした。

「え、切原から聞いてなかったってこと?」
「うん。そろそろそんな時期かなっては思ってたけどね」
「…ふうん」

 何か言いたそうな表情を見せた莉伊に「何?」と問いかければ何でもないと返される。大体予想が付いてしまう限り、それは、莉伊が言いかけた言葉は、自他共に認めるものとして確定する。


「あ、でも出発は9時とか言ってたから…ほら、テニスコートのとこにまだいる」
「見送んないの」
「別に。昨日頑張ってって言ったし」

 そこで私は莉伊の間違いを見つける。「ここの符号、マイナスじゃなくてプラスだよ」「あ、うそ。ありがと」それにより話題は反れて来週の数学のテストの話になる。

 そういえば赤也は後で補習を受けるって言ってたな、テストも後でってことか。あーあ面倒だろうに。そして時計は9時を示す。1限開始のチャイムが鳴り、窓の外ではテニスコート付近に停まってたバスが走り出していた。あの中に赤也がいる。きっと、丸井先輩と早速お菓子交換でもしてるんだろうな、なんて。
 私の方を向いていた莉伊は自分の机に向き直る際に、「寂しいとかは、思わない?」と私に投げかけた。私はといえば「…うん、あんまり」と苦い笑みを浮かべる。莉伊は「そっか」と私と同じように笑った。そうだ、赤也と私は、自他共に認める倦怠期なんだ。


 莉伊の背中をぼーっと見つめてから窓の外へ視線をやると、もうバスは居なくて、残されたテニスコートのネットがひらりと風に揺れていた。



 …本当は私も風に揺れたネットも寂しくて仕方ない、はずだ。



ひらり、ぽたり




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