5限開始を告げるチャイムが鳴る。校舎全体が静かになって、私と赤也がいる空き教室も静寂に包まれた。 「…ごめん」 「……え?」 「5時間目、サボることんなっちゃってさ、ごめん」 ごめん、の続きがそんなことでとりあえず安心した。そんなことと表現するのもどうかとは思ったけど、でも、そんなことだ。全然大丈夫だよと私が笑うと、赤也は対照に下を向いた。 「…怒ってるだろ?」 「何を?」 「全部、ぜんぶ」 相変わらず下を向いたままの赤也にどうしても顔を向けて欲しくて、私は「怒ってないよ、でも」と答える。予想通り赤也は私を見つめて、「…でも?」と。 「怒ってはいないけど、すごく、悲しかった」 「…うん」 「寂しかった」 「…うん」 「…赤也は、整理してくれた?」 そんな私の質問に、赤也はぎゅっと口を結んで少し考えるような素振を見せた。これが、最後のチャンス。私は、赤也の言葉を待つだけだけれども。 「…あのさ、先に、俺の話聞いてもらってもいいか」 「、うん」 「俺ね、すげえかっこ悪いの。付き合ってから結構経つのにさ、なまえの前だと緊張しちゃうわけ。でもそんなのダサいから、あえて冷たくしてそれ隠してて、それで結局さ何話していいかもわかんなくなって、気まずくなっちゃって。それで、言いたくないことばっかり口から出ちゃって」 そこまで聞いたら、やっぱり泣けてきた。それに驚いた赤也は慌てて自分の制服の裾で私の涙を拭う。 「っごめ、やっぱ俺なまえのこと悲しませちゃって、」 「ちが、違うの!」 「…へ?」 「悲しいんじゃないの、その、嬉し、いの」 じゃあ、俺でもいいの?…なんて赤也が顔を覗き込んできた。そんな当たり前すぎること聞かないでよ、赤也じゃなきゃだめなんだよ。 「なまえ、」 「…なに?」 「今日、一緒に帰ろうぜ!」 素直になれずに、らしくなかった自分たちをリセットする今日。もう一度感じる右手の温かさを幸せだなって実感して、君の笑った顔を愛しいなって実感して、やっぱりやっぱり君が好き。 ▽10_11_06 完結 |