昨日のあの電話の後、たくさん泣いた私は当然というべきか目が充血し瞼は腫れてしまっていた。そして、ここでも当然と言うべきだろう。莉伊は思いっきり眉間に皺を寄せ、「どうしたの」と私に尋ねた。


「…昨日の夜、」
「うん?」

 私を宥めるように優しい声色で頷いた彼女。私は彼女に、甘え続けていいのだろうか。はて、と疑問にも思ったが、話さずにはいられなかった。誰かに聞いて欲しかった、やり場の無い切なさとか悲しさとか。それでもやっぱり赤也が好きだという事実とか。
 けれど、昨日のこと、昨日思ったこと、昨日本当は赤也に伝えかったこと、それらを言葉にしてしまったらきっと私はいろんな感情に負けて泣き出してしまうだろう。教室で、こんなところで泣くのは御免。ありがたく、優しさだけ受け取る。ありがとう、ありがとう。

「…うん、なんでもないよ」
「……そ」


 きっと莉伊は、私の心の中の葛藤でさえもわかったうえで、それ以上は何も聞いてこなかった。






 そして、赤也とは連絡をしないまま、次の週になった。今週はテスト期間だ。何かにがむしゃらになって(今の場合はがむしゃらにテスト勉強をして、)赤也のことを一時的にも忘れようとした。けれど、やっぱり携帯が気になった。案の定、メールは来ない。もちろんだが丸井先輩からもかかって来ない。けど、例えば英語の文法を考えるときも、間違ったところを消しゴムで消しているときも、ずっと気にしているのは携帯で、携帯越しにあの音楽を待っていて、あの人を思っていた。勉強どころじゃ、なかった。


「…それで」
「…」
「作ってしまったわけだ」
「…」
「切原の補習対策ノート」
「…うん」


 先週の英語の授業内容は、理解に時間のかかった範囲だった。ましてや英語が苦手教科である彼にとっては地獄のようなアルファベットの行列に違いないと思い、このようなものを作ったということだった。


「随分と健気だねえ」
「そうでも、ないよ」
「けど切原を思って、でしょ?えらいえらい」
「喜んでくれるかな」
「くれるよ、くれるに決まってるよ」



 こないだ「大丈夫」と何度も言ったときのように、莉伊は強い口調でそう言った。今回だってどこからの根拠か分からない。でも、私の不安を軽くしてくれる優しい言葉だったから、それを信じようと思った。


 好き、好きだから、もう一度私を必要としてください。そしてもう一度、一緒に笑ってください、温度をください。そんな祈りが届くように、それから莉伊に一杯の感謝が伝わるように、私は笑ってみせた。


「もうすぐテニス部帰って来るね」
「…うん」



Please,please,




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