そろそろ溢れそうなゴミ箱を見て思う。今頃みんなは楽しくやってるんだろうな、って。そしてまたティッシュを一枚取り出して、ずびーっ。…またひとつ、そのゴミを積み上げた。

「風邪とか最悪だよ…」


 今日は本当ならみんなと一緒に初詣に行ってるはずだった。みんな、っていうのは私がマネージャーとして所属する部活のメンバーのこと。そのみんなと年が明けたら初詣に行こうねって約束したのは去年の最後の部活の日だった。
 その次の日、私は風邪をひいた。私の年越しは喉の痛みと鼻水と共に。風邪なのに寒いところに長時間いるわけにはいかないし、鼻水も止まってはくれないし、………そんな訳で私はみんなとの約束をパスしたのだ。






「お邪魔するぜよ」
「…!?」

 と、うなだれている私のもとへやって来たのは「みんな」の中の一人、仁王くんだった。

「…な、なんで?」
「幸村に行ってこいって言われての」


 なんだ、仁王くんが心配したからじゃないんだ。そんなふうに欲張ってしまったのは私が仁王くんに恋心を抱いてる所為。仁王くんと、みんなの中でも少し鈍い真田くんや切原くん以外はそのことを知ってるから、だから幸村くんはそんなことを言ったのだ。あああ、もう。


「風邪なんじゃろ?起きてて平気か?」
「うん、喉と鼻水だけで熱があるわけじゃないから」
「ん、良かった」


 ふ、と笑った仁王くんに今年の初キュンだ。どうしよう今なら熱がある気がしなくもないかもしれない。とりあえず鼻をすするだけでは堪えきれなくなった鼻水をどうにかしよう、ずびーっ。




「…大変そうじゃなあ」
「えっ、あっ、ごめん!」

 好きな人の前で盛大に盛大に盛大に鼻をかんでしまったという事実があとから追い付いてきて、恥ずかしくなって、急いで謝った。それも仁王くんは笑って「ええよ」、って、「大丈夫か?」って言うんだ。ず、ずるい…。



「わざわざごめんね、本当はみんなと初詣行きたかったでしょ?」
「ああ…まあまあ、かの」
「なんか、…うん、ごめん」
「なまえは、行きたかったか?」
「…う、うん多分」
「…ほーか」


 それから仁王くんは口を開かなくなった。やっぱりみんなが楽しんでるのに自分ひとり私のお見舞いで、本当はいやだったのかな。どうして幸村くんは仁王くんに行ってこいなんて行ったんだろう。仁王くんは優しいから断れないだろうし、…はあ。



「どうした?」
「え?」
「溜息ついとったから」
「え!あ、何でもないよ」
「…なあ」

 仁王くんがうつむき加減でなあ、なんて言ったから怒ってるのかと思った。二人でいるときに溜息なんてつかれたら…私は謝罪の言葉を口にする準備をした。



「ご、」
「なあ、あとで二人で行かんか?」
「………え」
「お前さんも俺も行けてないんじゃき」
「…」
「やっぱ、あいつらも一緒の方がいいか?」
「う、ううん!二人でも大丈夫!」


 心臓が駆けだしてしまいそうだった。仁王くんと、二人で初詣。二人で、そのことがぐるぐるとじわじわと脳内を侵す。飛び跳ねたいような叫びたいような衝動を抑えて「じゃあ冬休み中の部活終わりにでも行こう」っていう約束をした。




「とりあえず、早く治すんじゃよ」
「うん、ありがと…」
「じゃあ俺はそろそろ」

 そうして仁王くんが帰るのを見送った私の口元は、彼が帰ったあとも緩み続けているのだった。





細胞の恋する音が聞こえる



「あいつらがいい加減にそろそろくっ付きますように」
「…いいよ丸井は自分のお願いだけで」
「あ、幸村くんも一緒に頼んでくれよ効果倍増させようぜ」


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