「お疲れさま、はかどってる?」



 その言葉と一緒に私は仁王くんに自動販売機で買ったミルクティーを差し出す。仁王くんは大層驚いたような表情を見せて私を見つめた。



「…何でおるんじゃ?」
「私もここで勉強してたから」
「え」
「ここの机からはちょっと見えないんだけど。そこの角のところに私もずっといたんだよ、気付かなかったでしょ?」


 仁王くんと私はいわば彼氏と彼女で。テスト期間になると一緒にこの図書館で勉強することも何度かあったけ
れど、今日は本当に偶然に会った。ただ気付いていたのは私の方だけだったけど。仁王くんってばすごく集中してるんだもん、なんだか話しかけづらくて、まあそれでもいいかって私はそのまま話しかけずに別の机に座っていた。



「言ってくれればええんに」
「邪魔したくないなあって思って」

「…まあ一段落ついとるからここ座って」
「うん、ありがとう」


 仁王くんは自分の隣にある椅子を引いた。私は言われたとおりにその椅子に座って、数学の教科書を自分の前に置いた。



「なまえは?進んどる?」
「うーん、あんまり。今回の範囲むず
かしい」
「そうじゃなあ、俺も今回は出来ん」



 そう言って仁王くんはシャーペンをノートの上に軽く放り投げた。そして、「ありがとな、いただきます」とミルクティーの缶を開ける。甘い匂いが私のところまで届いて、すっと心が落ち着いて、瞼まで重たくなったのだ。
 私は机に自分の頭をコツンとぶつけた。「ごめん、少し寝てもいい?」と頭と机をつけたまま仁王くんの方を見ると、仁王くんは「疲れたんか?」と言ってクス
クスと優しく笑った。

「……うん」
「ええよ、少ししたら起こしちゃる」
「お願い…します…」



 私は静かに目を閉じる。睡眠特有の、ふわりとしたような感覚に包まれて気持ちよくなるとすぐに、自分の瞼に違和感を感じた。



「…っえ?」
「何じゃ、起きたんか」
「今仁王くんちゅーした!?」
「ん、寝顔か
わいかったからつい」
「…」
「まあさすがに公共の場じゃから口じゃなくて目にしといたぜよ」
「あーもう仁王くんの馬鹿…」



 眠かった私はもうそれ以上は怒れなくって、今度は仁王くんに顔を向けないようにそのまま机に突っ伏した。そのことに対して仁王
くんはつまんないだの何だのぶつぶつと言っていたけど知らん振り。
 だって恥ずかしくて、私の瞼辺りはじわじわと熱を帯びている気がして、とても仁王くんには見られたくなかった。





「……邪魔なんかじゃないんに」




で花らは






仁王くんお誕生日おめでとう!



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