いま、あんまり良くない意味ですごくどきどきしてる。


 今日は赤也くんの誕生日。私の、はじめての、大切な人。一週間くらい前に「25日あいてる?」って照れくさそうに聞かれたもっともっと前から私はちゃんと知っていた。十分に時間はあったはずなのに、デートに着ていく服だってそれなりに考える時間もあったのにそれなのに。


「(プレゼント用意してないなんて言えない…!)」
「なまえ悪い!待たせた!」
「うっ、ううん全然!私も今来たよ?」
「ホントか?うそは言うなよ」
「大丈夫本当だよ」
「ん、じゃあ良かった」


 赤也くんは、くしゃっと人懐っこく笑った。この笑顔だとか、私を気遣ってくれる優しさが本当に好き。そんな赤也くんの誕生日なのに、あああ私ってばどうしてだろう、赤也くんに何をあげたらいいのかわからなかった。


 彼の誕生日なのだから行き先は彼の行きたいところばかりで構わないのに、赤也くんは私が人ごみが苦手なのを思ってか静かな場所ばかり選んだ。彼の見たいものを見ていいのに、「あの服なまえが今日着てるのと似てるな」とか「あの靴なまえに似合いそう」とか、私のことばっかりを見た。嬉しい反面なんだか申し訳なくって、ときどき泣きそうになった。赤也くんのことが大好きだなって何度も何度も実感して、やっぱりときどき泣きそうになった。





「あのね赤也くん、」

 言わなきゃ。そう思って私は立ち止まってから彼の名前を呼んだ。赤也くんは一歩歩いてから私が急に止まったことに驚いて、慌てて振り返る。


「…ごめんなさい」
「ん、何が?」
「……プレゼント、用意してないの」
「え?」
「ごめんなさい」


 言い訳になっちゃうのかもしれないけど、赤也くんの誕生日を忘れてたわけじゃない。ずっとずっと、頭の片隅に、ううんもっと真ん中の方。私の考えることはほとんどそれだったのに、何をあげたらいいのか全然決まらなかった。赤也くんの欲しいもの、赤也くんの好きなもの。私は何も、何も、彼のことを知らなくて。


「もしかして、今日ぎこちなかったのってそれ?」
「えっ…私そんなんだった?」
「…楽しくねえのかなって思ってた」
「ちがうちがう!その、それは全然ちがう!」
「……嫌われたかなとか、実はすげえヘコんでた」
「ご、ごめんね!本当それはありえない!」



 私が必死に首を横に振ると、赤也くんは「うん」って優しく笑った。そのあとに、大丈夫だよ考えててくれただけでも嬉しいしって頭を撫でてくれた赤也くん。ほら帰ろうぜって私を優しく諭して歩き出したけど、なんか、だめ、納得できない。私は赤也くんの背中目掛けて走り出す。


「ま、待って、だめなの!」
「?」
「私、赤也くんのこと何も分かってないの!」
「…」
「好きなものとか、必要なものとか、どんなものを貰ったら嬉しいのかとか、だから、だから…」
「…」




 焦る私に赤也くんはゆっくりと近付いてきて、私のことをぎゅうっと抱きしめた。びっくりして固まってしまった私に赤也くんはとどめの一言。


「俺ぶっちゃけると……………………欲しいのはなまえかなって思う」




 一気に私は体中が火照った。赤也くんも赤也くんで自分で言ったくせにどんどん赤くなっちゃって、「悪い、今のナシ!まじでナシ!」と口元を抑えていた。
 もっともっと赤也くんの色んなことを知って、もっともっともっと好きになりたい。ほら、例えばこんな一面とか。照れてずかずかと一人で歩いて行ってしまった赤也くんの姿が、本当に愛おしかった。







赤也くんお誕生日おめでとう!二人は付き合いたてのイメージです。
title by 秘曲



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