外はしとしと雨が降っていた。湿気が多い所為かいつもよりぺたん、となっている私の髪の毛をさらりと彼は慣れた手つきで掬う。彼はすんすんと私の髪の毛の匂いを吸い込むと、静かに笑った。


「お前の匂いがする」
「柳くん、」
「放してはやらないからな」
「…うん」


 言おうとしていたのは全然違うことで、むしろ全く逆の「放さないで」に近いことだったのだけど私は素直に頷く。体内にあるすべてを彼に委ねるようにそっと力を抜いた。彼の口元は満足そうに弧を描く。次に彼は私のことをとらえて逃がさぬように、だけどどこか優しい手付きで、私の肩を掴んだ。そして静かに響いた二人のそれが重なる音。「ちゅ」、彼のキスはいつも触れるようなものだった。




「柳くん、」
「なんだ?」
「雨やまないね」
「…ああ、そうだな」

 彼は私につられるようにして窓の外に視線を送る。しばらく雨を見つめていたかと思えば、急に怖い顔をした。どうしたの?そう問えば返ってきたのは同様のクエスチョンで「お前は早く雨がやんでほしいか」と。



「まあ…どっちかっていうと雨はあんまり好きじゃないから…」
「それではもしも、雨がやんだら、」

 お前は帰ってしまうのか。彼はゆっくり呟いた。どうやら彼は、私がいまここに、教室に、居る理由は雨で帰れないからだと思っているらしい。
 違うよ、そうじゃないよ、言おうとしたけれど再び彼の「ちゅ」が降ってきて言えなかった。代わりに私はぎゅっと彼の背中を掴む。


 きみと、ずっと、こうしていたいからだよ。



「…あ」
「、どうかしたか?」
「柳くん、外、見て」
「?…………雪、か」

 雨が雪に変わっていた。いっそう寒い季節になる。理由なくくっついていられる時期になる。そうだよね?、確かめたくてもう一度背中を掴む。その私の行動を受けて彼は私の首筋に潜り込む。ちゅ、ちゅ、ちゅ。目を閉じたその先には現実より少しだけ早く真っ白で真っ白で真っ白な世界が待っていて、静かに、揺れた。


 その白い世界に彼の姿が薄ら浮かぶ。私のことを呼んだような気がした。「お前、」「お前、」「…なまえ、」。それに答えるように私は彼の、柳くんの、名前を呼ぶ。



「柳くん」
「どうした?」
「れん、じ」
「…」
「雪、降ってるね」
「…ああ」
「蓮ニ」
「ん」
「好きだよ」



 私は言い逃げるように目を瞑った。だけど白い世界の彼も一言、「俺もだ」。白い世界はほんの少しピンク色に染まった、そんな気もする。





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