あのね、流れ星が消えないうちにね、お願い事を3回言えることが出来たらね、その願いは叶うんだって。 幼いときに母親から教えてもらったそのジンクス。あの夜空のきらきらはいつか夢を叶えてくれる。その美しいことを誰かに伝えたくて、真っ先に向かったのはお隣に住むいわば幼馴染のブン太くんだった。 ブン太くんは私と同じように感動してくれた。「へー!すごいな!」と。それだったら二人で流れ星を見つけようと夜に近くの公園まで行ったこともあって、そのときはお互いにひどく怒られたものだった。 それが、彼がテニス界で丸井ブン太として有名になる前の、ブン太くん、の記憶。 「ブン太くんも有名になったな」 父親が、スポーツ雑誌を読みながら言った。母親も、それに頷く。私はというと自分に話が振られる前に部屋へ行った。閉め忘れていたカーテンの先の暗闇に、星が光っていた。 結局あの日、あの夜、流れ星を見ることはなかった。私は、怒られたことが悲しかったのか流れ星が見れなかったことが悲しかったのがよく覚えてないけど、泣いた。それを、必死に宥めてくれたのもブン太くんだった。 それから度々夜空を見上げても見つけることはできていない。そして、 「願い、ごと」 そして、私の願い事。ブン太くんを返してください、なんて。夢を追ってる、テニスを頑張ってる、丸井ブン太に失礼なのは承知で、そんなことを願っている。けれど、どうせ流れ星は見つからないから、心の中でひそかに願っている。 窓を開けると、涼しい風が私の頬をなでた。私の部屋から見て向かい側には、彼の部屋があった。電気は点いていない。流れ星を見つける見つけないの問題じゃなくて、彼は帰ってこない。こんな時間まで練習だなんて、テニスは私に、ブン太くんを返してはくれない。 「ブン太くん、」 生きている、けどもう存在していないその名前を呼んだ。そのとき向かい側の電気がパチと点いて、同じくカーテンを閉めていなかったらしい部屋の中の彼と目が合った。なんだ、帰ってたのか。丸井ブン太は、テニスバックを降ろして窓を開ける。「よー久しぶり!」なんて、ブン太くんの顔をした丸井ブン太が言った。 「…丸井ブン太」 「は、何その呼び方」 「あ、いや」 「……なんか、あった?」 地上から数メートル離れたこの場所で、地上から数メートルどころではなく離れている星たちを見た。彼の質問には、何にもないよとしか答えられず、ただ星を見上げた。流れ星が見つけられるかもなんて期待は、最初からしていない。 「あ、怒られたよな俺たち」 「…流れ星の話?」 「そうそう、また行く?」 「行かないよ」 「言うと思ったー。…そんなお前に、自慢」 「?」 「俺、さっき帰ってる途中に見ちゃった」 「っえ、流れ星!?」 驚いて、窓から身を乗り出した。向かい側では丸井ブン太が「おい、危ねえから」なんて言って笑っていた。そんなのお構い無しに私はもう一度、念を押す。流れ星を、見たの? 「おう。しかも、3回言えた」 「う、そ」 「本当。しかもしかも、もう叶っちゃったわけ」 丸井ブン太が、ニカっと笑う。それは、ブン太くんの笑い方とよく似ている。…似ているも何も同一人物であるのだけど。 「俺のお願い、聞きたい?」 「…え、」 彼は、ブン太くんも丸井ブン太もしないような真剣な表情で私に問うた。戸惑った私が四の五の言う前に、彼は、「俺のお願いはー!」と叫んだ。 「ちょっ、近所迷惑!」 「俺のお願いはー!」 「だからっ、」 「お前!」 「……は?」 「お前の名前を3回言ったら、会えたから!」 流れ堕ちた星、ぱくり 瞬間、私の目から流れ星が零れた。「はっ?ちょ、泣くなよい!っえ、ちょっ、ちょっと待ってろよ今行くから!」そこには昔と変わらず泣き虫な私を必死に宥めるブン太くんが居た。 ▽10.10.16 キミ×俺+宇宙=心の距離さまへ提出。 ありがとうございました! |