今年の彼の誕生日は休日だった。しかもお互い部活の大会が近いということで忙しかった。私の部活は遠征、赤也の部活は1日練習。当然誕生日パーティーなんか開けるはずもなく一緒に遊びに行けることもない。ただ、9月25日0時0分きっかりに、背景の色を変えてケーキのデコメを使って、とびきり可愛くしたつもりのおめでとうメールを送った。そしたら3分後に、「ありがと嬉しい。今年はなまえと一緒に入れなくて寂しい」と泣き顔の絵文字が返ってきた。なんら変わりもない、普通のやり取りだった。



「今日切原の誕生日じゃないっけー?」
「そうだよ、なのに遠征だなんて」
「どんまいだね、」

 部活の友達は私をほんの一瞬だけ哀れんだあとに、すぐに「まあ気持ち切り替えてこ」と部活の話に戻した。祝えないのは寂しいけれど、赤也もテニスを頑張っているはずだから私も頑張らなくちゃと思った。誕生日プレゼントなんかは、すぐ2日後に来る月曜日に学校で渡せばいい。けど、ファンの子たちは今日渡せているのかななんて考えると、やっぱり悲しくなった。

 遠征から学校へ戻ってきたのは夜の8時、家に帰り夕食、お風呂、と落ち着いたのは11時だった。私は携帯のアドレス帳から切原赤也の名前を引き出し通話ボタンを押した。


「(よーなまえ)」
「あっ、赤也、部活お疲れ」
「(はは、サンキュ。お前もお疲れ)」


 赤也の声は優しく私を落ち着かせる。今日の遠征の結果とか、本当は遠征なんかに行かないで赤也に会いたかったという少しの我が儘とか。伝えたいことはいっぱいあった。けど、電話では表情も身振り手振りも伝わらない。やっぱり、やっぱり、会いたかった。

「ごめんね、今日に限って…」
「(ううん、俺だっていつも忙しいし)」
「マネージャーさんとかファンの子が羨ましいや」
「(何で?)」
「今日、赤也に会えたから」
「(…俺、だって)」
「ん?」
「(俺だって、今日、なまえに会いたかった)」


 その電話越しの声と共に赤也が伏し目がちに俯く様子が脳裏に浮かんだ。時計を見ると、もう今日は終わってしまいそうだった。


「…でも、日にち変わっちゃうね」
「(うん。だから、窓から顔出して)」
「………え?」



 まさか、
 言われたとおり窓を勢いよく開けると、そこには左耳に携帯電話を当てながら手を振る赤也がいた。「家、こっそり抜けて来ちゃった」まさか、その続きの言葉は今、目の前で現実になっている。



「え、何で、赤也っ…」
「しー!もう夜中なんだから」
「けど!」
「行っただろ、なまえに会いたかったって」


 にっ、と白い歯をだして赤也は笑った。「日にち変わるから、言って、早く!」、そんなお願いをするところがやっぱり愛しく思えて、私は窓枠を軽く飛び越えた。私の部屋、1階にあって良かった。


「誕生日おめでとう赤也、大好き、大好き!」




 そんな9月25日、23時59分。



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