Novel | ナノ

前回までのあらすじ。新米天女として町の平和を守るために日夜悪と戦っていた烏丸衣織。けれど突如として現れた怪しい男に捕まってしまい絶体絶命大ピンチ!!そんな衣織の前に現れたのは銀髪天パのあの人で!?次回、ついにシャイな彼が衣織に愛の告白をする―――。予告タイトル『私たち結婚します』来週もお楽しみに!

「……えーっと、話の内容からして衣織ちゃんってのは君だよね。さっきからブツブツ言ってるけどもうそろそろ終わってくれるかな」

「もう少し、もう少しだけ待ってください雑渡さん。そろそろ銀ちゃんが華麗に登場して私に告白してくれるんです」

疲れたような表情で私を離そうとする雑渡さんの腕を即座に掴み、私は銀ちゃんの登場をまだかまだかと待つ。

それにしても遅いな、やっぱりいくら銀ちゃんでも異世界まで私を迎えにくるのは難しいのかな。でもこんな良いシチュエーションは滅多にないですよ銀ちゃん。暴漢に襲われた私を守っての愛の告白なんて最高じゃあないですか。このタイミングを逃したらまた私への告白が遅くなっちゃうよ銀ちゃん。

「銀ちゃんは照れ屋だからなかなか本音を言えないんですよね。この前だって私に会いたいだけのくせして生活費が足りないなんて理由つけちゃって、おまけに照れ隠しに財布から金を、」

「ああ、銀髪天パのあの人は銀ちゃんっていうんだ。……念の為に聞くけどその人本当に君のこと好きなの?」

「いくら初対面でも銀ちゃんの私への愛を疑うなんて許しませんよ。銀ちゃんはちょっとシャイで不器用で愛情表現が下手くそなだけなんです」

「うん、まあ、いつか現実を受け入れられる日がくるといいよね」

「あ、ちょうちょ」と近くを飛んでいたモンシロチョウを眺めながら投げやりな態度で答える雑渡さん。ふん、雑渡さんは本物の銀ちゃんを見てないからそんな的外れなことが言えるんだ。

「それにしても何の話をしようとしてたんだったかな……、ああそうだ、君って忍術学園の新しい天女なんだよね」

「ちょっとー、なんかやる気が失せてないですか雑渡さん。もっと気合い入れて追及しにきてくださいよ。いつ銀ちゃんに見られても!銀ちゃんが!私のことを!心配になるように!」

「……私も長年忍者やってるけどさ、こんなに可哀想な子を見るのは初めてだよ。もう今日は銀ちゃんも来ないから諦めなさいって」

「あ、諦めたらそこで試合終了ですよ!?」

「人生諦めが肝心って言葉もあるんだよ。ほら、大人しくここに座って」

いつの間にか大きな岩の上に腰を下ろした雑渡さんは、自分の隣に手ぬぐいを敷いて私を呼び寄せる。要するに手ぬぐいの上に座れということらしい。わぁ紳士。すっかり機嫌を損ねていた私は遠慮することなく雑渡さんの手ぬぐいの上に腰を下ろしてやった。

「それで、もう一度確認させてもらうけど君が忍術学園の新しい天女ってことで間違いないのかな?」

「……さあァァァ?そんなに気になるなら忍術学園で聞いてきたら良いんじゃないですかねェ?見たところ雑渡さんも忍者みたいだし?忍術学園の人だって同じ忍者には親切にしてくれると思いますし?」

「………………」

つっけんどんな態度で答えた私をジッと静かに見てくる雑渡さん。さすがに居心地の悪さを感じた私が「お、怒りましたか?でも銀ちゃんのことは譲らないですよ私…」と呟くように言えば、雑渡さんはなぜか驚いたように目を見開いてから「怒ってないよ」と穏やかな声で答えた。

「……どうやら本当に君は私のことを知らないんだな。それにしても今までの天女とはまるで違うのが驚きだよ」

「あの、それってどういう意味なんですか?学園長と初めて話した時にも同じようなこと言われたんですけどね、私と雑渡さんって絶対に会ったことないですよね?」

「うん、間違いなく初対面だね。そして今までの天女たちとも私は初対面だった」

「え?あれ?じゃあ私が雑渡さんのことを知らなくて当たり前じゃないですか。初対面の人間のことなんて知ってるはずないでしょうに」

「だよねー」

んだよ、もしかしてボケてんじゃねーの?このオッサン。噛み合わない会話にイライラし始める私とは対称的に、雑渡さんはのんびりと次の言葉を考えているみた「あ、アリの行列」……いっぺん殴ったろかコイツ。

しばらく何かを考える素振りをしていた雑渡さん(もしかしたらアリの行列を眺めていただけかもしれないが)だったが、ふと顔を上げて私の方に向き直る。お、ようやく私の疑問に答えてくれるのかな?……なんて期待したものの、私のその気持ちは雑渡さんの次の台詞であっさり粉砕されてしまった。

「……とりあえず先に自己紹介をしておこうか」

「こちとら他の天女の話が聞きたいってのに勿体ぶりやがりますね。いいですよもう自己紹介とかいらないですよ、どこかの組のお頭をしてる雑渡昆奈門さんでしょ。それだけ知ってりゃ充分ですってあとは目と目が合えば気持ちは全て通じますからいいですってもう」

「すごいね、君の目を見たら私のこと鬱陶しいって思ってるのが丸分かりだよ。でもおじさん負けないからね。私はタソガレドキ城の忍び組頭。君は知らないだろうが、タソガレドキ城は忍術学園と敵対する立場にある。だから私と会ったことはあまり言い触らさないように」

「えぇ〜?どおしよっかなぁ〜?言っちゃおうかなぁ〜?」

「これは君の安全のために言ってるんだよ」

「えぇ〜?なんか嘘くさいなぁ〜?やっぱり言っちゃおうかなぁ〜?」

「……君、よく頭が悪いって言われるでしょ」

他人をムカつかせると評判の神楽ちゃん直伝ニヤニヤ顔を浮かべた私に冷たい視線を向ける雑渡さん。すかさず「女はちょっとバカなくらいが可愛いっていうからそれは褒め言葉ですね!」と答えれば今度は疲れたようにため息を吐いた。仙蔵くんといい、この世界にはため息を吐く人が多いんだなぁ。

「……さて、自己紹介も済んだしさっきの話の続きをしようか」

佇まいを直した雑渡さんは、その台詞の最後にもう一言付け加える。

「―――伊作くんのためにも、ね」



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(なんでここで伊作くんが出てくるんだろう?)


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