ううむ、これ、どうしようか。わたしは、両手いっぱいに薪を抱えたまま、ぼんやりと薄暗い空気の中で立ちすくんだ。これ、というのはこの両手の重たい薪のことではなく、視界にはっきりと映る、黒いぼろ布のようなそれである。所狭しと立ち並ぶ民家や商家の間の、あるひとつのすき間に、ぽつんと黒い物体が転がっているのだ。昨日は確実に無かったそれに、瞼を一旦閉じてからもう一度視線を走らせる。やっぱりある。黒くて、ぼろぼろの布みたいで、猫や犬と言うには流石に大きすぎるそれに、関わってはいけないという自分の中の信号がけたたましく鳴っていた。わたしは、そろりと首を回して周囲の様子を確認する。朝早い時間だからか、外に出ている者はまだいないらしい。よし、何も見なかったことにしよう。決定。腕の中の薪を抱え直して、わたしはくるりと回れ右をした、否、しようと、した。なぜそれが叶わなかったかというと、その時、ぴくりと目の前の黒いぼろ布が動いて見せたのだ。掠れた、でも低くない、甘い響きの声を乗せて。



day 1



「ほのひはらしだんほ、ほっへほほひひいへふ」
「うん、わかんないからいったん団子飲み込もうか」


頬杖をつきながら彼に言葉を投げると、彼は両手に団子の串を持ったままこくんこくんと頷きを返した。ごくり、と漫画みたいな音をこちらに寄越しながら数秒かかって口の中のものを咀嚼したらしい彼は、口の端にみたらしのたれをひっつけたままもう一度言葉を繰り返した。このみたらし団子、とっても美味しいです。にっこりと笑った顔はあどけなくて、ああ彼はきっとわたしより年下だろうとそんなことをぼんやりと思った。2時間ほど前、ここ、京都のある下町でぼろ雑巾のように外に転がっていたのは、わたしの目の前でもぎゅもぎゅと団子を頬張るこの少年で、とりあえずわたしは汚らしい彼の服っぽい布きれを剥ぎ取って風呂場に彼をほうり込んだ。きれいになった彼にわたしの服を着せて、とりあえず団子を与えてみたのだが、それはもう鬼のように口に団子を運んでさっきからひとことも話していない。どれだけお腹がすいていたのだろうか。迷子ならば、早く家を探してあげなくては。鬼のようにみたらし団子を咀嚼する男の子から視線を外して、ちいさな庭を何の気もなしに眺めれば、朝日が差し込んで少しだけ眩しい。もう、7時過ぎぐらいかなあ。


「ねえ、きみさあ、」
「もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ」
「おーい聞いてるー」
「もぐもぐもぐもぐ」
「ね、え!きみ!」
「ほっほ、ほっほはっへふははい」
「は?」
「もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ」
「……もういいや、きみ、あ、それ、その串食べたらおうちに帰りなね。家、どこか、わかる?」
「すみませんここに僕をおいて下さい」
「いろいろすごいねきみ」



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